古生物学:間氷期に生息域を北方に拡大させていたアメリカマストドン
Nature Communications
2020年9月2日
絶滅種のアメリカマストドン35頭のミトコンドリアゲノムの解析から、アメリカマストドンが、更新世(250万年~1万1700年前)の間氷期の温暖化に対応して北米の北方緯度域に向かって繰り返し移動していたことを示した論文が、今週、Nature Communications に掲載される。この知見は、研究者たちが現生種の地球温暖化に対する生態学的応答の可能性を解明する上で役立つかもしれない。
アメリカマストドン(Mammut americanum)は、かつて北米の森林地帯や低湿地に生息しており、その遺骸が、中米の亜熱帯から米国アラスカ州やカナダ・ユーコン州の北極緯度域にかけて発見されている。過去80万年間の氷期と間氷期のサイクルのために、北米の居住可能な土地の約50%で氷床が周期的に拡大した。しかし、マストドンがこうした変動にどのように応答したのかは不明だ。
今回、Emil Karpinskiたちの研究チームは、北米の博物施設から入手したアメリカマストドンの骨と歯の化石の試料を調べて、33点の標本の完全なミトコンドリアゲノムの塩基配列を解読した(解析にはこれ以外に、すでに公表されている2件のゲノムも含まれる)。その結果、5つの異なる分類群(クレード)のマストドンが特定され、そのうちの2種は、ベーリンジア(かつてロシアと米国の間に存在した地域)東部を起源としていた。Karpinskiたちは、ベーリンジア東部に生息していたこれらの分類群の標本の年代に重複のないことを確認し、2つのクレードが別々の時期にベーリンジア東部に生息域を拡大させた可能性が高いと考えている。こうした拡大のあった時期は、温暖な気候条件によって森林や湿地が形成された間氷期と一致していた。
また、Karpinskiたちは、この北方のクレードの遺伝的多様性のレベルが、大陸氷床の南側で生息していた分類群より低かったことを明らかにした上で、現代の気候変動によって、生物種の一部が、同じように生息域を北方に拡大させている可能性が高いと主張している。こうした生物種は、南方で生息する遺伝的多様性の高い集団がいなくなることで、脆弱な状態に陥る可能性がある。
今回の研究に関する著者たち(Hendrik Poinar、Emil Karpinski)のディスカッションの様子は、下記URLよりご覧いただけます。
https://vimeo.com/451213616/4e30de4a98
doi:10.1038/s41467-020-17893-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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