動物学:変動性の高い環境で生活するチンパンジーの群れの方が行動の多様性が高い
Nature Communications
2020年9月16日
過去と現在に変動性の高い環境で生活したチンパンジーの群れの方が、より安定した環境で生活したチンパンジーの群れよりも行動のレパートリーの多様性が高いことを明らかにした論文が、今週、Nature Communications に掲載される。144の野生のチンパンジー群集のデータを使った今回の研究から、環境の変動性が、大型類人猿の行動と文化の多様化を促進する要因であったことが示唆された。
生物種や生物個体群において発達する行動特性と文化特性は、その生物種や生物個体群が生息する環境によって形作られることがある。例えば、行動の種類が多ければ、長期間にわたって環境の変動性に対処する上で役立つ可能性がある。今回、Ammie Kalanたちの研究チームは、個体群レベルでの31のチンパンジーの行動(洞穴の使用や水浴びから、採餌戦略、道具の使用まで)に関するデータベースを用いて、この関係を検証した。Kalanたちは、144のチンパンジーの群れによる特定の行動の使用が、いろいろな時間スケールで、(1)降水量の変動性、(2)サバンナ生息地と森林生息地の使用状況、(3)氷河期の避難地であった森林からの距離という3つの環境変動性の尺度に関連しているかを分析した。
この分析結果によれば、更新世(約250万~1万年前)の氷河期に避難地であった森林から遠く離れた場所で生活していたチンパンジー個体群の方が、行動レパートリーの多様性が高かった。Kalanたちは、長い期間をかけて避難地の森林から離れていった個体群の方が、森林の近くから動かなかった個体群よりも新しいタイプの文化的行動を採用する可能性が高かったと考えている。また、チンパンジーの行動多様性は、サバンナで生活したチンパンジー個体群の方が森林生息地で生活した個体群よりも高く、大きな降雨の季節性を経験した個体群においても高かった。このことは、行動の多様性が、現在の環境変動性によっても形作られることを示唆している。
doi:10.1038/s41467-020-18176-3
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