保全:ロープを張って作った人工橋が世界で最も希少な霊長類を救うかもしれない
Scientific Reports
2020年10月16日
世界で最も絶滅の危機に瀕している霊長類であるハイナンテナガザルが、森林生息地の林冠の大きな欠落を補うために作られたロープ橋を渡るところを初めて観察されたことを報告する論文が、Scientific Reports に掲載される。この知見は、ロープ橋が保全活動に役立つ可能性のあることを示唆している。
ハイナンテナガザル(Nomascus hainanus)は、中国の海南島の森林でのみ見つかっており、その生息地内では木々を伝って空中を移動している。林冠の欠落(自然にできたものや人為的にできたもの)があると、個体群が特定の地域に閉じ込められ、採餌や繁殖の機会が少なくなり、捕食されるリスクが増える。
ハイナンテナガザルの生息地で地すべりが自然発生して、幅15メートルの小峡谷が形成され、生息地が分断された。このため、Bosco Pui Lok Chanたちの研究チームは、2015年に林冠を結ぶ人工橋を建設し、ハイナンテナガザルが生息地の間を移動しやすくした。Chanたちはプロの登山家の協力を得て、頑丈な木に登山用ロープをつなぎ、モーションセンサーカメラを設置して、野生生物の使用状況を監視した。
ハイナンテナガザルは、このロープ橋が組み立てられてから176日後に初めて、ロープ橋を渡るところを撮影された。470日間の研究期間中に、ロープ橋を使用するテナガザルの写真208点と映像53件の記録が得られた。映像に最も多く映っていたのは、ロープ伝いに木登りするテナガザルで、その次に多かったのが、ロープにぶらさがるテナガザルだった。ハイナンテナガザルの9つの群れの全ての個体(ただし雄の成体を除く)が、ロープ橋を使用しているところが記録された。若年のハイナンテナガザルは、体サイズが大きくなるとロープ橋の使用頻度が低くなり、雄の成体と一緒に森林の欠落部分を跳び越える様子が定期的に記録されていた。
今回の研究は、林冠の欠落を埋めるロープ橋の効用と価値を明確に示している。Chanたちは、自然林の復元は優先すべき保全介入だが、林冠を結ぶ人工橋は有用な短期的解決策になる可能性があると結論付けている。
doi:10.1038/s41598-020-72641-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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