健康:調乳の際に乳児用哺乳瓶から放出されるマイクロプラスチックの評価
Nature Food
2020年10月20日
ポリプロピレンを含有する乳児用哺乳瓶を使って一般的な調製粉乳を調乳する際に、哺乳瓶からマイクロプラスチックが放出される可能性があることを示唆する論文が、Nature Food に掲載される。人間の健康に対するマイクロプラスチックの影響については、解明が遅れており、今回の知見から、さらなる研究が必要なことが浮き彫りになっている。
ポリプロピレンは、食品の調理に最も広く使用されているプラスチックであり、ポリプロピレンの年間生産量は、非繊維プラスチックの年間生産量の20%を占めている。しかし、ポリプロピレン製容器からのマイクロプラスチック放出は、ほとんど解明されていない。
今回、Jing Jing Wangたちの研究チームは、世界のオンライン市場で販売されている哺乳瓶の大半を占める10種類の乳児用哺乳瓶を対象として、世界保健機関(WHO)が推奨する殺菌条件と調乳条件の下でマイクロプラスチックの放出を調査した。これらの乳児用哺乳瓶は、本体か付属品がポリプロピレンでできていた。調査の結果、マイクロプラスチックの放出量は、哺乳瓶によって130万~1620万粒子の幅があることが明らかになった。哺乳瓶からのマイクロプラスチックの放出は21日の研究期間中継続し、放出量は水温などさまざまな要因によって変動した。
次にWangたちは、これらのデータを用いて、全世界の乳児のマイクロプラスチックへの曝露可能性をモデル化した。Wangたちは、生後1年にわたってポリプロピレン製哺乳瓶を使ってミルクを飲んだ乳児が、1日平均160万粒子のマイクロプラスチックに曝露すると推定した。また、マイクロプラスチックへの曝露モデルには地域差があり、アフリカとアジアの乳児は曝露の可能性が最も低く、オセアニア、北米、ヨーロッパの乳児は曝露の可能性が最も高いことが分かった。
Wangたちは、乳児が、これまで考えられていたより多量のマイクロプラスチックに曝露されている可能性があると結論付けている。食品と接触するプラスチックが日常的に使用される際にマイクロプラスチックをどのように放出するのかを解明するためには、さらなる研究が必要である。同時掲載のNews & Viewsで、Philipp Schwablは「今回の論文に示されたマイクロプラスチックへの曝露の規模は、警戒すべきものと思われるかもしれないが、人間の健康に対するマイクロプラスチックとナノプラスチックの影響については解明が遅れているため、乳児の健康に対する実際の影響については研究をさらに進める必要がある」としている。
doi:10.1038/s43016-020-00171-y
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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