神経科学:メディア・マルチタスキングと記憶障害との関連性
Nature
2020年10月29日
メディア・マルチタスキング(複数のデジタルメディアを同時に利用すること)が若年成人の記憶力に悪影響を及ぼす可能性があることを報告する論文が、今週、Nature に掲載される。この知見は、重度のメディア・マルチタスキング(例えば、テレビを視聴しながらネット上での文章作成やネットサーフィンを、長時間にわたって行うこと)が注意散漫や物忘れの増加に関連することを示唆している。
ヒトの物忘れの背後にある理由や記憶力の個人差については、以前からさまざまな疑問が提起されてきた。現代のデジタル文化の台頭に伴い、メディア・マルチタスキングがエピソード記憶(出来事の記憶)の個人差とどのように関係しているのかという疑問が、新たに加わった。
今回、Kevin Madore、Anthony Wagnerたちの研究チームは、80人の若年成人(18~26歳)を対象に、メディア・マルチタスキングが自発的な注意散漫と関連するかどうかと、注意散漫が記憶に悪影響を及ぼすかどうかを調べた。実験では、被験者のコンピュータ画面上にさまざまな物体の画像が短時間表示された。10分の遅延時間経過後に、再びこれらの物体の画像が短時間表示され、被験者は、それらの物体が最初に見たものとと比べて大きくなったか小さくなったか、楽しくなったか不快になったか、前に見たことがあるか否かを回答した。注意散漫になったかは、脳波活動と瞳孔径の変化を測定することで判定した。また、参加者は、1週間にどの程度メディア・マルチタスキングを行っているか、注意欠如・多動症(ADHD)の症状、衝動性、ビデオゲームの利用状況、注意力、注意散漫傾向を測定するためのアンケートに回答した。
以上の結果から、記憶する前の瞬間に注意散漫になることが、忘却だけでなく、記憶に関する神経信号の減少にも関連していることが示唆された。Madoreたちは、より重度のメディア・マルチタスキングは、注意散漫の頻度が高まる傾向と関連している可能性があり、それがエピソード記憶の低下に寄与するという考えを示している。
doi:10.1038/s41586-020-2870-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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