遺伝子治療:AAV遺伝子治療の長期的な安全性に懸念
Nature Biotechnology
2020年11月17日
アデノ随伴ウイルス(AAV)を用いた血友病のイヌの遺伝子治療の10年間にわたる長期研究で、肝臓がんのリスクを上昇させる可能性のあるゲノム変化が見いだされたことを報告する論文が、今週、Nature Biotechnology に掲載される。今回の知見から、FDAが認可した2つの遺伝子治療でベクターとして使われているAAVが、まれではあるががんを促進する可能性があるかどうかを判断するには、さらなる研究が必要であることが示された。
AAVは天然のウイルスで、血友病などの遺伝性疾患の患者の細胞に治療用遺伝子を送達するためのベクターに組み込まれている。AAVベクターは安全と考えられていて、通常はAAV自体のゲノムがヒトゲノムに挿入されることはない。しかし、マウスでのいくつかの研究では、遺伝子治療用AAVベクターのゲノム挿入が肝臓がんを引き起こす可能性があることが明らかになっている。
今回、Denise Sabatinoたちの研究チームは、9頭のイヌを使って、最長10年間、AAVによる遺伝子治療を研究した。このAAVベクターによって送達された治療用遺伝子によって、凝固第VIII因子と呼ばれるタンパク質が合成される。Sabatinoたちは、この治療によって、イヌの血友病の症状が研究期間を通して正常化することを明らかにした。Sabatinoたちはまた、AAVのゲノムがAAVベクターによってイヌゲノムに挿入されたかどうかを調べたところ、細胞増殖やがんに関連する遺伝子への挿入が検出された。こうした挿入事象の中には、細胞増殖を引き起こしたように見える例があり、これらは悪性腫瘍につながる恐れがある。
2頭のイヌでは、凝固第VIII因子の血中濃度は4年間安定していたが、その後思いがけず上昇し始め、研究終了時には初期の濃度の3倍にまで達した。この最終的な血中濃度でも健康なイヌに比べればはるかに低いため、危険な値とは考えられないが、Sabatinoたちはこの上昇の原因を突き止めることはできなかった。現在行われているAAVを用いた遺伝子治療の臨床試験では、このような上昇は観察されていない。
Sabatinoたちによれば、イヌでは肝臓がんの兆候は見られなかったという。とはいえ、このゲノム変化は安全性への懸念を生じさせるものであり、さらなる研究とAAVベクターで治療した患者の長期的な経過観察が必要である。
doi:10.1038/s41587-020-0741-7
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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