神経科学:社会的隔離はヒトの脳内で渇望反応を引き起こす
Nature Neuroscience
2020年11月24日
10時間にわたって強制的に社会的に隔離されたヒトは、社会性への渇望を経験し、社会的交流の画像に対する脳の反応が強くなる傾向のあることを示唆する論文が、今週、Nature Neuroscience に掲載される。
社会的交流は、報酬刺激であり、笑顔などの前向きな社会的交流に関連した画像は、ヒトの脳内のドーパミン報酬系を活性化させる。これまでの研究で、短時間の社会的隔離を受けたマウスは、その後の社会的交流時に中脳ドーパミン系の反応が強化されることが示されており、このことは、中脳ドーパミン系が、隔離後の孤独感に似た状態に寄与している可能性を示唆している。しかし、ヒトが、社会的隔離後に同様の神経反応を経験するかは明らかでない。
今回、Livia Tomovaたちの研究チームは、40人の被験者が、対面やオンラインでの社会的交流から隔離されるセッションと絶食するセッション(各10時間)を行う様子を観察し、それぞれのセッション後に、被験者に社会的交流、食物、花の画像を見せて、脳のfMRIを実施した。また、被験者には、孤独感、食物への渇望、社会性への渇望を経験したかを自己申告させた。
この実験で、被験者は、社会的交流からの隔離後には社会性への渇望が増し、絶食後には食物への渇望が増したと自己申告した。これに対応して、ドーパミン作動性活性と一致する報酬反応と新規性反応に関連する中脳領域は、社会的交流からの隔離後には社会的交流の画像に対して、絶食後には食物の画像に対して、強い反応が見られた。Tomovaたちは、社会的交流からの隔離後の社会的交流の画像と絶食後の食物の画像に対する中脳の反応は互いに類似していて、花の画像に対する中脳の反応よりも類似性が高いことを明らかにした。これは、急性の社会的隔離は、絶食が食物への渇望を引き起こすのと類似した過程で社会性への渇望を引き起こすことを示唆している。
Tomovaたちは、今回の研究から、短期間の社会的制約や社会的隔離が、社会性への渇望を引き起こし、社会的交流などの要求を断たれた状態に対する脳の反応に影響を及ぼす過程に関して新たな知見が得られたと結論付けている。
doi:10.1038/s41593-020-00742-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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