老化:マウスの細胞を「若返らせて」視力を回復させる
Nature
2020年12月3日
マウスの目の神経細胞を若齢期の状態に再プログラム化すると、再生能力を再び獲得し、視力が回復することを明らかにした論文が、今週、Nature に掲載される。今回の研究は、老化のメカニズムに関する解明を進め、加齢に伴う神経細胞疾患(例えば、緑内障)の新たな治療標的を特定した。
神経細胞の一種である網膜神経節細胞は、目の中に存在し、軸索と呼ばれる突起を脳に向けて伸ばしている。軸索は、発生初期に損傷を受けた場合には生存・再生することができるが、成人期以降には生存・再生することはできない。今回、David Sinclairたちの研究チームは、視神経に損傷を受けた成熟マウスの網膜神経節細胞で山中転写因子(遺伝子をオン/オフできるタンパク質)であるOCT4、SOX2、KLF4を発現させると、網膜神経節細胞が若齢期の状態に再プログラム化されることを実証した。マウスは、新しい軸索を成長させることができ、その一部は脳基部まで伸びていた。また、同様の処置は高齢マウスと緑内障モデルマウスの両方で、神経細胞の減少傾向を逆転させ、視力の回復を実現した。
分子レベルで見ると、神経細胞の損傷と回復には、遺伝子発現のパターンを変化させるエピジェネティックな変化、つまりメチル化などの分子変化が関与しているようである。網膜神経節細胞が損傷すると、メチル基と呼ばれる分子が細胞のDNA上に蓄積し、神経細胞が回復すると、脱メチル化して、若齢期のメチル化パターンになった。この知見は、老化がエピジェネティックな変化の蓄積によるものであり、複雑な組織の老化を逆転させ、その生物学的機能を回復させることが可能だという考えを裏付けている。また、今回の研究は、哺乳類の組織がDNAメチル化によって部分的にコードされた若齢期の情報の記録を保持しており、これを利用して組織の機能を向上させることが可能なことを示している。
同時掲載のNews & Viewsで、Andrew Hubermanは、今回の知見がヒトに関係するものかどうかを論じている。Hubermanは、今後、今回用いられた3種の山中転写因子の効果をヒトにおいて検証する必要があるとした上で、これらの転写因子が、種を超えて脳神経細胞を再プログラム化できる可能性のあることが、今回の研究から示唆されたとしている。
doi:10.1038/s41586-020-2975-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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