環境科学:人為起源物質の量が、生きている生物体量を追い抜く
Nature
2020年12月10日
人為起源物質の量が、生きている生物体量を初めて上回るクロスオーバーポイントが2020年に到来する可能性のあることを報告する論文が、今週、Nature に掲載される。建物、道路、機械などの人工物に埋め込まれた物質の量は、過去100年間で20年ごとに倍増してきた。今回の知見は、人間が地球に与える影響が増大していることを明確に示している。
最初の農業革命以降、人間は、土地利用の仕方を変えて農業や森林伐採などを行い、植物の生物体量を約2兆トンから現在の約1兆トンに半減させた。また、「人為起源物質(anthropogenic mass)」と呼ばれる人工物の生産量と蓄積量が増加していることも、生きている生物体量と人為起源物質の量のバランスの変化に寄与した。
今回、Ron Miloたちの研究チームは、1900年から現在までの全球の生物体量と人為起源物質の量の変化を推定した。その結果、20世紀初頭には、人工物の量は生物体量全体の約3%にすぎなかったが、現在では、人為起源物質の量が全球の生物体量を上回り、約1.1兆トンに達したことが明らかになった。この期間中の、全体の生物体量の減少はわずかであったのに対し、人為起源物質の量は急増し、現在では年間300億トン以上のペースで生産されている。つまり、地球上の人々全員の体重を超える人工物が、毎週生産されている。
人為起源物質の大部分を占めるのが建物と道路で、この他にプラスチックや機械などがある。人為起源物質の構成の変化は、1950年代中盤以降に建物に使用される材料がレンガからコンクリートに移行したこと、1960年代に道路舗装にアスファルトが使用されるようになったことなど、具体的な建築トレンドに対応している。さらに、人為起源物質の総量の変化は、第二次世界大戦後のグレート・アクセラレーション(建設工事の増加が続いた時期)などの主要な事象に関連している。
Miloたちは、クロスオーバーの起こる正確な時期は、その定義の仕方によって変化するため、推定値に多少のばらつきが生じるかもしれないと指摘している。Miloたちは、今回は乾燥重量(水分を除く重量)で推定を行ったが、人為起源物質の量と生物体量のバランスの転換が、湿重量による推定や物質カテゴリーの異なる定義によって、過去・現在・将来の10年以内に起こる可能性があるという考えを示している。現在の傾向が続けば、人為起源物質の量は2040年までに3兆トンを超えると予想される。
doi:10.1038/s41586-020-3010-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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