機械学習:人間の動きをモデル化してインフルエンザの活動性を予測する
Nature Communications
2021年2月10日
匿名化された携帯電話データの機械学習に基づく分析によって、インフルエンザの感染拡大をモデル化し、予測することができると報告する論文が、今週、Nature Communications に掲載される。作成された移動マップを用いて、米国ニューヨーク市とオーストラリアでのインフルエンザの感染拡大を正確に予測できることが示された。
ウイルス性疾患の集団内での感染拡大は、感染者と非感染者の相互作用に依存している。しかし、国内や都市内でのウイルス性疾患の感染拡大がどのように起こるのかを予測するモデルを構築する際には、通勤者調査やインターネット検索データなど、情報量が希薄で不正確なデータが用いられているのが現状だ。
今回、Adam Sadilekたちは、情報量の豊富なデータセットを得るため、位置履歴の設定を有効にしたアンドロイド携帯からの匿名化された追跡データを収集し、機械学習を使ってデータを個々の「移動(trip)」に分解し、人間の移動マップを構築した。次にSadilekたちは、この移動マップを用いて、2016~2017年のニューヨーク市内とその周辺部におけるインフルエンザの活動性を予測し、その際、通院と臨床検査から得られた既知のデータで較正した感染症伝播モデルを使用した。その結果、このモデルは、一般に使用されている標準的な予測モデルよりも性能がよく、入手コストの高い通勤者調査データを使用した場合に匹敵することが明らかになった。また、Sadilekたちは、2016年のインフルエンザ流行期のオーストラリア全土での感染拡大を予測した。オーストラリアは人口密度が低く、インフルエンザの動態も異なっていたが、このモデルによってインフルエンザ流行の消長が正確に予測された。
既存の高分解能移動データは、プロバイダー固有の通話記録に基づいており、通常は二国間の移動や国際的な移動は捕捉されない。位置データは、このような制限がないため、疾患の感染拡大を長距離にわたって監視できる可能性が高い。しかし、スマートフォンを使用する可能性が低い子供と高齢者の移動データが除外されているため、この位置データの完全性には限界がある。こうした限界があるにもかかわらず、Sadilekたちは、携帯電話から収集したデータを使用して、流行拡大を予測できる可能性のあることを明らかにした。今回の結果を重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)などの他のウイルス感染症にも適用できるかを見極めるためには、さらなる研究が必要だ。
doi:10.1038/s41467-021-21018-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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