進化:ネアンデルタール人の聴覚は我々と同じだったのかもしれない
Nature Ecology & Evolution
2021年3月2日
ネアンデルタール人は、現生人類と同様の聴力と発声能力を有していたことを、ネアンデルタール人の外耳と中耳のコンピューター断層撮影(CT)スキャンおよび聴覚生体工学モデルによって明らかにした論文が、今週、Nature Ecology & Evolution に掲載される。
絶滅したヒト族の文字記録や音声記録が残っていないため、その言語能力はほとんど明らかにされていない。しかし、絶滅したヒト族の耳のモデルの再構築と検証から、知見を得る手段が得られており、最近の研究では、初期のヒト族の発声能力と聴力が現生人類ほど高度ではなかったことが示されている。
Mercedes Conde-Valverdeたちは、既報の化石標本に基づいてバーチャルに復元したものを用いてネアンデルタール人の耳の音響伝送力を調べ、ネアンデルタール人が聞き、そしておそらく発したと考えられる音の範囲を再現した。その結果、ネアンデルタール人は、それ以前のヒト族(ネアンデルタール人の直接の祖先を含む)とは異なり、現生人類と同じ範囲の音を聞くことができ、ネアンデルタール人の聴覚は子音の発声に向けて最適化されていたことが明らかになった。これは、ネアンデルタール人が、現生人類の発声と同じくらい複雑で効率の良い音声コミュニケーション機構を支えるのに必要な聴覚能力を備えていたことを意味している。
Conde-Valverdeたちは、現生人類のような発声に必要な解剖学的「ハードウエア」がネアンデルタール人に存在したからといって、現生人類と同じ知能的「ソフトウエア」が存在したとは限らないと注意を促している。しかし、今回の知見は、ネアンデルタール人の象徴的行動に関する最近の考古学的発見と合わせると、ネアンデルタール人が非ヒト動物のコミュニケーション機構とは異なる一種のヒト言語を備えていたという説を支持している。
doi:10.1038/s41559-021-01391-6
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
注目のハイライト
-
化学:アルゴリズムは、ウイスキーの最も強い香りと原産地を嗅ぎ分けることができるCommunications Chemistry
-
天文学:月の年齢はより古いNature
-
気候変動:南極の海氷減少が嵐の発生を促すNature
-
天文学:天の川銀河の超大質量ブラックホールの近くに連星系を発見Nature Communications
-
惑星科学:土星の環が若々しい外観を保っている理由Nature Geoscience
-
惑星科学:木星の衛星イオに浅いマグマの海はないNature