生態学:英国における侵入種ハイイロリスの防除に遺伝子ドライブが役立つかもしれない
Scientific Reports
2021年3月5日
既存の遺伝子ドライブ技術を組み合わせて用いれば、英国の侵入種ハイイロリス(Sciurus carolinensis)の集団の防除に寄与しつつ、他のリス集団にとってのリスクをほとんど生じさせない可能性のあることが、モデル化研究から明らかになった。この研究成果を報告する論文が、Scientific Reports に掲載される。
遺伝子ドライブは、生物の集団に対して、雌の不妊を誘発する改変遺伝子を導入することで、集団のサイズを制御できるようにする。ただし、遺伝子ドライブ個体と野生個体との交配による改変遺伝子の拡散の制御方法、遺伝子ドライブを無効にする可能性がある遺伝的抵抗性の発生などの技術的課題が解決されていない。
今回、Nicky Faberたちは、これらの課題に取り組むため、コンピューターモデル化を実施して、ハイイロリスの事例研究を行い、3種類の遺伝子ドライブ技術の組み合わせであるHD-ClvRの有効性を調べた。
その結果、HD-ClvRを用いることで、標的としたハイイロリスの集団が効果的に抑制され、他のリス集団にとってのリスクがほとんど生じないことが明らかになった。HD-ClvRは、その構成要素である3種の遺伝子ドライブ技術のそれぞれの長所を兼ね備えている。ホーミング遺伝子ドライブは、改変遺伝子を生殖細胞(子孫に遺伝情報を伝える細胞)に挿入して、この遺伝子が将来世代に受け継がれるようにする。CleaveR(Cleave and Rescue、ClvR)による遺伝子ドライブは、子孫に耐性アレルが発生しないようにする。デイジーフィールド遺伝子ドライブは、個体間で受け継がれる改変遺伝子の数を制限し、改変遺伝子の標的集団外への拡散を抑制する。今回の研究で得られた知見は、HD-ClvRが侵入種を効果的に防除し、在来種へのリスクを抑えられることを示唆している。
Faberたちは、HD-ClvRが生きた動物で検証されておらず、これらの遺伝子ドライブを使用する前にさらなる研究(例えば、ハイイロリス集団の急激な抑制が生態系全体に及ぼす影響を調べる研究など)が必要だと注意を促している。
doi:10.1038/s41598-021-83239-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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