環境:海洋保護によって三重の便益が得られる可能性
Nature
2021年3月18日
国際的に協調して海洋環境を保護する取り組みによって、生物多様性、食料供給、炭素貯蔵の便益が得られる可能性があると示唆する論文が、今週、Nature に掲載される。
海洋保護区(海洋保護区では資源採取活動や破壊活動が制限される)は、海洋の生物多様性と生態系サービスを回復させるための有効なツールとなり得る。しかし現在、海洋保護区として指定された海域、もしくは指定が提案されている海域は、海域全体の約7%にすぎない。
今回、Enric Salaたちの研究チームは、海洋によってもたらされるサービスの便益を最大化するための海洋保護方法と、海洋保護を実施すべき場所を特定するために、生物多様性の保全、食料供給、炭素貯蔵を目的とする戦略間のトレードオフを評価した。その結果、海洋保護区がもたらす可能性のある最大の生物多様性便益の90%が、海洋の21%を戦略的に保護することによって達成できることが明らかになった。また、海洋の28%に海洋保護区を戦略的に設定することで、食料供給量が590万メートルトン増加すると推定された。底引き網漁などのいくつかの漁業活動は、海洋堆積物中に貯蔵された炭素を放出する。しかし、このような漁業活動をやめる決定を下すためには、堆積物の炭素源がすでに枯渇しているかを考慮する必要がある。Salaたちは、底引き網漁による炭素のかく乱の現在のリスクを90%削減するためには、海洋のわずか3.6%を保護すればよいと示唆している。ただし、これらの推定値は、底引き網漁が海洋堆積物からの炭素の放出に及ぼす影響に関する入手可能な限られたデータに基づいている。
これら3種類の便益全てに最適な保護戦略は、どの便益が最重要視されているのかによって異なる。海洋の生物多様性の便益と食料供給の便益を等価と考える場合には、最適な保全戦略によって海洋の45%を保護することで、最大で生物多様性便益の71%、食料供給便益の92%、炭素貯蔵便益の29%が得られる可能性がある。Salaたちは、国際的に協調した取組みが、協調体制を取らない国内レベルの保全計画の2倍効率的である可能性があると指摘し、海洋保全への投資を増やし、協調的アプローチで海洋保全を行うことを求めている。
doi:10.1038/s41586-021-03371-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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