医用生体工学:補聴器での音の圧縮は難聴の害になることがある
Nature Biomedical Engineering
2021年5月4日
補聴器で用いられる音処理アルゴリズムは、似た音を聞き分ける装着者の能力を低下させる可能性があることが、動物実験から明らかになった。このことを報告する論文が、Nature Biomedical Engineering に掲載される。この知見は、短期的にはもっと単純な装置の方がヒトには有効と考えられることを示すとともに、将来的には補聴器を改良するための新たな方法を示唆している。
補聴器は、軽度から中等度の難聴の主たる処置法となっている。しかし、便益が得られる可能性があっても補聴器を装着していない人は多い。その一因は、補聴器が実際の状況で聴力を適切に回復させていないことにある。ベーシックな補聴器は、線形増幅によって設計されており、これは入ってくる音のレベルに関わりなく一定レベルの増幅を行う。また、多くの補聴器は、小さな音を選択的に増幅するように設計された圧縮アルゴリズムを備えている。
今回、Nicholas Lesicaたちは、聴覚障害のあるスナネズミにヒトの発話の音を聞かせ、下丘(脳の聴覚中枢の1つ)のニューロン活動を調べた。彼らは、この脳領域のニューロンが、未処理の音、線形増幅処理を行った音、増幅・圧縮処理を行った音に対してどのように応答するかを記録した。その結果、増幅・圧縮処理を行うとニューロンの応答がゆがみ、このゆがみは圧縮の除去によって部分的には修正されるが、全てが修正されるわけではないことが明らかになった。さらに、難聴でない場合でも、増幅処理のみでニューロンの応答がゆがむことも見いだされた。これは、補聴器の使用者が経験する知覚上の問題の多くが、実際には正常なものであることを示唆している。
Lesicaたちは、線形増幅を行う単純な補聴器を広く普及させることで、補聴器の普及率は、便益を損なうことなく急速に向上する可能性があるが、補聴器を改良するためには、究極的には増幅の悪影響を打ち消す新しい音処理アルゴリズムが必要であると結論付けている。
doi:10.1038/s41551-021-00707-y
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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