気候変動:ハリケーン「サンディ」の被害に気候変動がどの程度影響したか
Nature Communications
2021年5月19日
人為起源の気候変動による海水準上昇がなければ、ハリケーン「サンディ」による被害額は約80億ドル(約8800億円)少なかったと考えられるとした論文が、Nature Communications に掲載される。この論文では、「サンディ」による洪水の被災者も7万1000人少なかったと示唆されている。
海水準上昇は、高潮や洪水による沿岸域の暴風雨の影響を増幅させることが知られており、これによって沿岸域の住民のリスクが増大する。海水準上昇は、気候の温暖化の結果であることが認められているが、自然災害の結果において、人為起源の気候変動に直接起因する結果の部分を同定するのは難しい。
今回、Benjamin Straussたちの研究チームは、2012年に米国東海岸を襲ったハリケーン「サンディ」の影響を再評価し、人為起源の海水準上昇に起因する被害を特定した。Straussたちは、海水準上昇がそれほど大きくない一連のシナリオの下で起こると想定される海水準と被害のシミュレーションができる動的な洪水モデルを用いた。現実には、米国のニューヨーク州、ニュージャージー州、コネチカット州が、620億ドル(約6兆8200億円)以上の被害額を報告し、その大部分が洪水によるものだった。Straussたちは、この現実の被害額を人為起源の海水準上昇がより小さなシナリオにおける経済的損害の推定値と比較し、その差が約80億ドルであることを明らかにした。Straussたちは、シミュレーションと現実の洪水の程度を追跡調査し、人為起源の海水準上昇によって、洪水の被災者が4万~13万1000人多くなり、被災住宅が3万6000戸多くなったことを明らかにした。
Straussたちは、海水準上昇以外にハリケーン「サンディ」による被害額に影響を与えた可能性のある数多くの気候変動の影響の全てを考慮に入れることはできないが、この手法は、気候変動の全球的コストのベースラインを推定できると主張している。
doi:10.1038/s41467-021-22838-1
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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