生態学:ヒトと家畜とコウモリが生み出すコロナウイルスアウトブレイクのホットスポット
Nature Food
2021年6月1日
森林の分断化が大きく進み、畜産業が野生生物の生息地に侵入している地域では、コウモリからヒトへのコロナウイルス感染が促進される可能性があることを報告する論文が、Nature Food に掲載される。
この知見は、土地利用の変更と畜産革命が将来の新たな重症急性呼吸器症候群(SARS)関連コロナウイルスの出現を誘発する過程を示している。
食料生産、都市化、森林伐採を原因とする人為的な土地利用の変更によって、野生生物の生息地が脅かされ、ヒトと野生生物の接触が増えている。アジアのキクガシラコウモリは、ヒトに感染する可能性のあるSARS関連コロナウイルスを保有していることが知られている。ヒトと野生生物との相互作用の増大が新規疾患のアウトブレイク(集団発生)を引き起こすという仮説が提起されているが、この仮説を裏付ける定量的証拠は得られていない。
Maria Cristina Rulliたちの研究チームは、2000年からアジアのキクガシラコウモリの分布に関するデータを収集しており、対象域は西ヨーロッパから東アジアまでに広がっている。Rulliたちは、このコウモリ種が生息する地域(2850万平方キロメートルを超える地域) における森林被覆、農地分布、家畜密度、住民の人口、住民の居住地と土地利用の変更に関する空間データの分析により、将来的にSARS関連コロナウイルスのアウトブレイクのリスクがあるホットスポットを特定した。こうしたホットスポットは、主に中国国内に位置しているが、インドシナ諸国とタイにも存在しており、森林の分断化が大きく進んでいて、家畜密度と人口密度が他の国々よりも高い。
これらの知見は、野生生物の生息地を畜産用農地に転換することが、ヒトと野生生物の相互作用を促進し、病原性を有する可能性のあるSARS関連コロナウイルスを保有するコウモリとヒトが相互作用する確率を高めるかもしれないことを示している。コロナウイルスが野生生物からヒトに感染する状況を解明することは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などの疾患の将来的なエピデミック(大流行)やパンデミック(世界的大流行)を予測して、回避するために重要である。
doi:10.1038/s43016-021-00285-x
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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