生態学:渡り鳥による種子散布が植物の気候変動への対応を制限する
Nature
2021年6月24日
ヨーロッパの多肉果植物種が寒冷な北緯度地方に向けた種子の長距離散布によって地球温暖化に対応しようとする際に、渡り鳥が手助けできる能力が限定的なことを示唆する論文が、今週、Nature に掲載される。こうした種子散布の恩恵を受けるのは、研究対象となった植物種のわずか35%と推定された。渡り鳥による種子散布は、気候変動に対する植物の適応に影響を与える可能性がある。
植物が気候変動の急速なペースに対応するためには、寒冷な緯度域に向けて、しばしば数十キロメートルも離れた長い距離にわたって種子を散布しなければならない。果実を食べる鳥類(果食性鳥類)の渡りは、種子の長距離散布という極めて重要なサービスの提供に役立つ可能性がある。種子散布の方向は、果実生産時の渡りの方向(北方向あるいは南方向)と一致するが、この関係を調べた研究は数少ない。
今回、Juan Pedro González-Varoたちの研究チームは、ヨーロッパの森林群落の果食性鳥類46種と多肉果植物種81種の相互作用949例からなる13の種子散布ネットワークを調べた。結実期間と渡りパターンに関するデータが記録された。分析の結果、大部分の植物種(86%)の場合、鳥類は秋に南へ渡り、赤道に向かって南下する際に、より乾燥した高温地域に種子を散布することが明らかになった。これに対して、春に北方の寒冷な緯度域へ向かう渡りによって、ビャクシン属(Juniperus)やキヅタ属(Hedera)の植物種などの種子が散布されており、これは植物全体のわずか35%である。キヅタ属は、結実期間が長い、あるいは遅いことが特徴で、それが早春と重なることが有利に働き、その種子散布は、鳥類の北への渡りと密接に関連している。ただ、北への渡りをするのは、主に中央ヨーロッパや南ヨーロッパで越冬するごく少数の一般的な鳥種だけである。ここに、ズグロムシクイ(Sylvia atricapilla)とクロウタドリ(Turdus merula)が含まれる点が注目される。
今回の研究は、植物が許容できる気候条件下で新たな群集を構築する能力が、ヨーロッパの鳥類による種子散布の多様性のために制限されていることを示唆している。今後の研究では、今回の研究で得られた知見を他の植物–鳥類系(例えば、水鳥による水生植物の拡散)に一般化できるかや、気候を原因とする植物や鳥類の行動の変化がこの状況に影響するかを調べる必要がある。
doi:10.1038/s41586-021-03665-2
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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