バイオテクノロジー:電池不要で吸収される一時的な心臓ペースメーカー
Nature Biotechnology
2021年6月29日
電池やケーブルがなくても働き、一定期間が経つと体内で完全に吸収される、一時的な埋め込み型心臓ペースメーカーについて報告する論文が、Nature Biotechnology に掲載される。この装置は、一連の動物モデルで試験済みであり、心拍数の維持に一時的に助けを必要とする、心臓手術の回復期患者の役に立つ可能性がある。
一時的な埋め込み型の心臓ペースメーカーは、外部のハードウエアと皮膚を介して管やケーブルで接続しているのが一般的で、これらが感染リスクをもたらし、患者の動きを制限する。その上、ペーシングが不要になったときには埋め込んだ装置を除去するので、心臓の組織を傷付けるリスクもある。こうした制限は、ケーブルでつながなくても動作し、役割を果たした後は体内で溶けてしまう装置を作ることで克服できる可能性がある。
今回、Rishi Arora、Igor Efimov、John Rogersたちの研究チームは、手術後の心拍数と心拍リズムを制御するための、薄くて軽量な完全埋め込み型の心臓ペースメーカーを開発した。この装置は、ワイヤレス電力伝送によって給電するため、ケーブルも電池も不要であり、これを構成しているのは、プログラム可能な一定時間後に自然な生物学的過程によって体内に吸収される物質である。この物質には可塑性があるため、この装置は心臓の曲面にフィットして、その動きに適応できる。検証の結果、このペースメーカーは、ヒト心臓の切片やマウス、ラット、ウサギ、イヌの心臓の収縮を引き起こすことができ、ラットでは埋め込み後3か月以内に完全に分解されることが明らかになった。
このような装置の開発によって、手術後に一時的にペースメーカーが必要な患者が、より安全性の高い治療を受けられるようになるかもしれない。
doi:10.1038/s41587-021-00948-x
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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