物理学:次世代原子時計が宇宙空間で作動中
Nature
2021年7月1日
宇宙空間で運用されている初めてのイオントラップ型原子時計について報告する論文が、今週、Nature に掲載される。この原子時計は、現在の宇宙時計より優れた性能であることが実証された。この性能レベルであれば、この技術を用いて、深宇宙探査機のほぼリアルタイムでの航法が可能になることが示された。
現在、宇宙空間で使用されている原子時計は、原子を箱の中に閉じ込めて、その振動を計測することによって作動する。しかし、原子が箱の壁に衝突することで、原子時計の長期安定性が損なわれる。この悪影響を克服したのがイオントラップ型原子時計で、帯電した原子が電磁的に閉じ込められているため、原子が壁に衝突しなくなった。
2019年、NASAは「ディープ・スペース・アトミック・クロック(DSAC)」と名付けられたイオントラップ型原子時計を地球周回軌道に打ち上げた。今回、Eric Burtたちの研究チームは、この原子時計の稼働1年目のデータを提示している。この原子時計は、試験開始直後に故障したものの、その短期安定性と長期安定性は、現在の宇宙時計の最大10倍に達した。また、時計の性能が、輻射、温度、磁場の変動によって制約されることはないようで、宇宙の極限環境での作動に適した時計になっている。
現在のところ、DSACの寿命は3~5年だが、10年あるいはそれ以上に延ばすための研究が行われているとBurtたちは指摘している。この技術に関して現在進められている研究と開発によって、深宇宙探査のための一方向航法での応用に道が開かれる可能性がある。
doi:10.1038/s41586-021-03571-7
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
注目のハイライト
-
化学:アルゴリズムは、ウイスキーの最も強い香りと原産地を嗅ぎ分けることができるCommunications Chemistry
-
天文学:月の年齢はより古いNature
-
気候変動:南極の海氷減少が嵐の発生を促すNature
-
天文学:天の川銀河の超大質量ブラックホールの近くに連星系を発見Nature Communications
-
惑星科学:土星の環が若々しい外観を保っている理由Nature Geoscience
-
惑星科学:木星の衛星イオに浅いマグマの海はないNature