Research Press Release

気候変動:北極の「最後の氷域」での記録的な海氷融解の原因を究明する

Communications Earth & Environment

2021年7月2日

ホッキョクグマ、アザラシ、セイウチの重要な避難地である北極の「最後の氷域(Last Ice Area)」で2020年夏に海氷が著しく減少した際に引き金となったのが、異常な夏の風と海氷の薄化の同時発生であったことを報告する論文が、Communications Earth & Environment に掲載される。この知見は、最後の氷域がこれまで考えられていたよりも気候変動に対して脆弱である可能性を示唆している。

北極海のグリーンランドの北側に位置するワンデル海は通常、密で厚みのある多年氷に覆われており、気候変動に直面しても、北極の他のどの氷域よりも長く存続すると予想されている。この氷域は、北極の「最後の氷域」と呼ばれることが多いが、2020年夏に、気候予測に反して、広大な開水域が出現した。

今回、Axel Schweigerたちの研究チームは、衛星画像と2020年のワンデル海の環境条件を考慮した数値モデルを用いて、この予想外の海氷減少の原因を調べた。その結果、2020年夏に顕著な海氷減少が起こった主たる原因が、異常気象であり、夏の強風が最後の氷域から氷を吹き飛ばしていたという推定結果が得られた。また、Schweigerたちは、この氷域に関して、1979年以降に収集されたデータに基づいた数値シミュレーションを行い、気候変動を原因とした海氷の長期的な薄化が2020年の海氷融解の激化に寄与し、最後の氷域が異常気象条件に対して脆弱になっていることが示唆されたと明らかにした。

Schweigerたちは、最後の氷域の保全を図るために、今後の研究では、この氷域の気候変動の影響からの回復力を定量化することを試みるべきだと考えている。この氷域が、氷に依存する哺乳類の一部にとって、最後に残された夏の生息地になってしまうと考えられるからだ。

doi:10.1038/s43247-021-00197-5

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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