経済学:老化を標的にすることに数兆ドルの価値が見込める
Nature Aging
2021年7月6日
老化を標的にして健康寿命を延ばす治療法に数兆ドルの経済的価値があるとする研究結果を報告する論文が、Aging に掲載される。
近年、平均余命だけに注目するのではなく、「健康的な」老化の概念がますます強調されている。特定の疾患の治療ではなく、健康寿命を延ばすことや一般的な意味での老化を標的とすることの経済的価値を判定する研究は、非常に興味深く、前途有望だ。
今回、Andrew Scottたちの研究チームは、米国の既存の経済・健康・人口統計データを用いて経済モデルを作成し、平均余命の延長、健康状態の改善、老化率の変化による経済的利益の金銭的価値を評価した。ここでScottたちは、読者の解釈に役立てて、このモデルを理解しやすいものとするために、よく知られた架空の人物(ピーター・パン、ウルヴァリン、ドリアン・グレイ、(小説『ガリバー旅行記』に登場する)ストルドブルッグス)によって示された4つの異なるテストシナリオを適用した。ピーター・パンは老化の遅延、ウルヴァリンは老化の逆転、ドリアン・グレイは健康寿命の延長と寿命の短縮、ストルドブルッグスは寿命の延長と健康状態の悪化を表している。このモデル化の結果、老化を標的とした介入が、健康寿命と平均余命を同時に延長できる可能性が高く、価値が認められることが分かった。この経済的価値は、平均余命の1年延長当たり38兆ドル(約4180兆円)と推定され、これまで考えられていたよりも著しく高い。また、Scottたちは、最も大きな価値があるのは、寿命と健康寿命を確実に一致させることであり、老化が改善されればされるほど、その改善の価値が高くなるという見解を示している。
すべてのモデル化研究の場合と同様、今回の研究で得られた特定の値は、入力データとモデルの正確な較正に非常に大きく左右される。初期の推定値にばらつきがあったが、老化が改善されることの価値は変わらない。経済的観点に立てば、これは、個別疾患を標的とする治療法よりも老化を標的とした治療法の研究に価値があることをさらに支持するものである。
doi:10.1038/s43587-021-00080-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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