考古学:ネアンデルタール人が彫刻を施した5万1000年前の巨大シカの骨
Nature Ecology & Evolution
2021年7月6日
ネアンデルタール人が彫刻を施した5万1000年前の骨が発見され、Nature Ecology & Evolution に掲載される論文で発表される。この発見により、ネアンデルタール人の高度な象徴的行動の証拠がまた増えることとなった。
芸術や象徴的行動の事例は、アフリカおよびユーラシアの各地で、初期のホモ・サピエンス(Homo sapiens)に広く見いだされている。しかし、人類に近縁の絶滅種であるネアンデルタール人に関しては、認知能力を明らかにする可能性のある類似の証拠が見つかっていない。
Dirk Leder、Thomas Terbergerたちは今回、放射性炭素年代測定法で5万1000年以上前のものとされた巨大シカの指の骨を発見したことを報告している。その骨はドイツ北部のアインホルンヘーレのかつての洞窟の入り口で発見されたもので、積み重なった山形紋の模様が刻み込まれている。顕微鏡による分析と実験による再現から、その骨はまず煮て軟らかくした後に彫られたことが示唆された。線の1本1本が山形紋の模様に刻まれていることから概念的想像がうかがわれるのみならず、当時のアルプス北方にはそのシカが珍しい存在であったことからも、その彫刻には象徴的な意味があるという見方が支持される。
著者たちは、彫刻を施された骨は、ホモ・サピエンスが中央ヨーロッパに到達する前に、ネアンデルタール人が象徴的行動を取っていたという証拠になると結論付けている。しかし、同時掲載のNews & ViewsではSilvia Belloが、5万年以上前にネアンデルタール人と現生人類の間で遺伝子の交換が行われていた証拠があることを考えると、「現生人類集団とネアンデルタール人集団の間では、知識に関しても古くから同様の交換が行われていて、それがアインホルンヘーレの彫刻物の制作に影響した可能性を排除することはできない」と述べている。ただし、彼女は「学習する能力、イノベーションを自分自身の文化に取り込む能力、そして新しい技術や抽象概念に適応する能力は、行動の複雑さの要素として認めるべき」であり、「彫刻が施されたアインホルンヘーレの骨によって、ネアンデルタール人の行動はさらにホモ・サピエンスの現代的行動に近付いた」とも述べている。
doi:10.1038/s41559-021-01487-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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