健康:妊産婦と乳幼児の低栄養がCOVID-19のパンデミックによって悪化するという予測
Nature Food
2021年7月20日
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)は、低・中所得国の妊産婦と乳幼児の低栄養(健康を維持するために必要なエネルギーと栄養素の摂取量が不足している状態)に対し、広範囲にわたって短期的・長期的影響を及ぼすことが、モデル化研究によって示唆された。このことについて報告する論文が、Nature Food に掲載される。モデル化されたシナリオの中で最も悲観的なシナリオでは、全世界で30億人がCOVID-19のパンデミックのために健康的な食餌を取ることができなくなると考えられている。
COVID-19のパンデミックにより、経済システム、フードシステム、医療制度が大きな影響を受けてきた。これらのシステムが混乱することの憂慮すべき結果の1つは、低・中所得国で妊産婦と乳幼児の低栄養が悪化する可能性のあることである。
今回、Saskia Osendarp、Lawrence Haddad、Saskia de Peeたちは、複数のモデル化ツールを用いて、COVID-19のパンデミックが2020~2022年に低・中所得国において多数の妊産婦と乳幼児の栄養状態に及ぼす影響を予測した。作成された複数のモデルは、経済予測とベースライン、すなわちCOVID-19流行前の介入レベルの国家間格差を反映するために、楽観的なシナリオ、中間的なシナリオ、悲観的なシナリオに適用された。
中間的なシナリオを例に取ると、パンデミックを原因とする混乱によって、2022年に対身長体重比の低い乳幼児が930万人(楽観的シナリオでは640万人、悲観的シナリオでは1360万人)増え、対年齢身長比の低い乳幼児が260万人(楽観的シナリオでは150万人、悲観的シナリオでは360万人)増える可能性が明らかになった。また、中間的なシナリオでは、乳幼児の死亡数が16万8000人(楽観的シナリオでは4万7000人、悲観的シナリオでは28万3000人)増え、妊産婦の貧血が210万人(楽観的シナリオでは100万人、悲観的シナリオでは480万人)増え、ボディーマス指数の低い乳幼児が210万人(楽観的シナリオでは140万人、悲観的シナリオでは300万人)増えると予測された。中間的なシナリオにおける発育阻害、衰弱、乳幼児死亡率の上昇による将来の生産性の損失は、297億ドル(約3兆2670億円)[悲観的シナリオでは443億ドル(約4兆8730億円)]に上る可能性のあることが明らかになった。これらの影響を緩和する方法としては、例えば、予算配分上の栄養介入の比率を高めることがあり、悲観的シナリオの下では、年間12億ドル(約1320億円)または17億ドル(約1870億円)の追加が必要となる。
Osendarpたちは、感染力の高い重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の新規変異株の急速な蔓延をはじめとする最近の展開を考慮すると、栄養への影響が悲観的シナリオに近いものとなる可能性があると結論付けており、そのため、各国政府と援助国は、世界的なCOVID-19対策の一環として、栄養介入を優先事項にすべきだと主張している。
doi:10.1038/s43016-021-00319-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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