光遺伝学:失明患者の視力が光遺伝学による治療で部分的に回復
Nature Medicine
2021年5月25日
40年ほど前に網膜色素変性症(RP)と診断された失明患者で、光遺伝学による新規な治療法によって視力が部分的に回復したことが報告された。これは、神経変性疾患患者で光遺伝学による治療(特定の細胞を光パルス刺激に応答するように遺伝子操作した後、その細胞を光パルスで制御する)を受けた後に機能の回復が見られた初めての症例である。
RPは神経変性による眼疾患で、光を受容する網膜細胞が破壊され、完全な失明につながることがある。RPでは認可された治療法が遺伝子置換療法しかなく、この治療法はRPの早発性のタイプにしか効果がない。
J Sahel、B Roskaたちは、現在進行中の第1/2a相臨床試験の当初の結果について報告している。彼らは、視力を失った58歳の男性RP患者1人の片方の目に、光遺伝学的センサーChrimsonRをコードするアデノ随伴ウイルスベクター(遺伝子治療に使われる)を注射し、治療用に作製したゴーグルを介して光刺激を行った。このゴーグルには特殊なカメラが備わっていて、視作業を行う間、これが視覚世界からの画像を捉えて光パルスに変換し、網膜へとリアルタイムで投射して、遺伝子導入した細胞を活性化した。この治療は耐容性が良好で患者がよく我慢できるものであり、これまで失明していたこの患者は、光刺激ゴーグルを装着している間は、治療を施した目で、さまざまな物体を認識し、数え、位置を知り、触ることができた。
光遺伝学によるこの治療法は、RPに関連して失明した患者の視覚機能の回復に役立つ可能性があると著者たちは結論している。しかし、この治療の安全性と効果をもっとはっきりと示すには、このような臨床試験でのさらに多くの結果が必要であろう。
doi:10.1038/s41591-021-01351-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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