生理学:疑似微小重力が引き起こしたマウスの体内でのホルムアルデヒドの蓄積と運動障害
Communications Biology
2021年8月20日
マウスを疑似微小重力条件下に置いたところ、数週間後に運動障害と運動協調性障害が観察され、ホルムアルデヒドという化合物が脳と後肢に蓄積したことが原因と考えられることを明らかにした論文が、Communications Biology に掲載される。著者たちは、これと同じ過程が、宇宙飛行士が宇宙空間で数か月過ごした後に経験する運動障害にも寄与している可能性があるという見解を示している。
地球に帰還した宇宙飛行士の中には、筋力低下や運動障害を起こして、歩行運動を数週間にわたって再学習する者がいる。微小重力状態がこうした運動関連の問題を引き起こす過程は明らかになっていない。
今回、Zhiqian Tongたちは、2週間にわたって8匹の成体マウスの後肢を懸垂して微小重力状態をシミュレーションした。その後の検査で、これらのマウスは、平均台上での運動協調性が低下し、回転棒上の滞在時間が対照マウスより短くなることが明らかになった。また、後肢懸垂マウスは、腓筋(ふくらはぎの筋肉)と小脳(運動の制御を助ける脳領域)におけるホルムアルデヒド濃度が高かった。次に、Tongたちは、マウスの体内でホルムアルデヒドの濃度が上昇した場合の影響を調べた。ホルムアルデヒドの分解に必要な酵素を欠損したマウスは、対照マウスと比べて、平均台と回転棒での平衡感覚と運動協調性が劣っており、健康なマウスの小脳にホルムアルデヒドを注入すると、運動協調性が低下した。以上の結果をまとめると、マウスの腓筋と小脳におけるホルムアルデヒド濃度の上昇が、マウスの平衡感覚異常と運動協調性の低下に関連していることが示された。薬用コエンザイムQ10を毎日投与する方法か1日2回赤色光に曝露する方法のいずれかによって後肢懸垂マウスのホルムアルデヒド濃度を低下させると、平衡感覚と運動協調性が改善されることも分かった。
Tongたちは、ホルムアルデヒド濃度が過大になると、小脳と筋肉が損傷され、平衡感覚と運動協調性が損なわれるという仮説を提示している。Tongたちは、ホルムアルデヒド濃度を低下させることを目指した治療戦略は、宇宙でのミッションから帰還した宇宙飛行士の健康を改善する方法の候補として研究対象になる可能性があると考えている。
doi:10.1038/s42003-021-02448-9
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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