電子工学:ワイヤレス給電のスケールアップ
Nature Electronics
2021年8月31日
部屋のどこにいてもワイヤレスで小型電子デバイスに給電できるワイヤレス給電方法について報告する論文が、Nature Electronics に掲載される。この方法を用いれば、小型充電キャビネットやワイヤレス充電部屋はもとより、スケールアップしてケーブルなしで装置に給電するケーブルレス工場を実現できる可能性もある。
ワイヤレス電力伝送技術は、すでに小型電気機器(スマートフォンや電動歯ブラシなど)の充電に利用可能である。しかし、現行のシステムでは、こうした機器を静置し、充電マットや充電ドックから数センチメートル以内の距離に保つ必要がある。
今回、東京大学の笹谷拓也(ささたに・たくや)たちは、部屋をワイヤレス電力伝送システムに変える技術を開発した。このシステムは、壁に組み込まれた導電性表面の多方向分布電流を用いている。今回の手法は、マルチモード準静空洞共振と呼ばれ、部屋(3メートル × 3メートル × 2メートル)全体に三次元磁界パターンを生成させ、スマートフォン、電球、扇風機などの電気デバイスに取り付けた小型のコイル型受信器と効率的に結合させることができる。効率を最大にするにはコイル型受信器を磁界に対して適正な角度に調整する必要があるが、部屋のどこにあっても、デバイスが動いている間でも、37.1%を超える電力伝送効率が達成可能である。笹谷たちは、この方法がこれまでの方法(例えば、既存のコイルベースの送信器)に勝るフレキシビリティーをもたらすと示唆している。また、笹谷たちは、このシステムの安全性、特に稼働時にどれほどの電力が生体組織に吸収され得るのかを調べており、その結果が、連邦通信委員会(Federal Communications Commission)と米国電気電子学会(the Institute of Electrical and Electronics Engineers)によって策定されたガイドラインの枠内に収まっていることを見いだしている。
笹谷たちは、部屋スケールのワイヤレス電力伝送が安全に実証されたことで、産業空間、個人生活空間のいずれに使用される場合にも、今回の技術が電子デバイスへの給電に幅広く適用できるようになると予想している。
doi:10.1038/s41928-021-00636-3
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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