環境:オーストラリアの山火事による二酸化炭素排出量の急増と藻類の大増殖
Nature
2021年9月16日
2019~2020年に発生したオーストラリアの山火事による二酸化炭素排出量が、複数の火災排出インベントリーに基づいた過去の報告値の2倍以上であったことを報告する論文が、Nature に掲載される。また、これとは別の研究で、こうした山火事によるエーロゾル放出が、数千キロメートル離れた南大洋でプランクトンの大増殖(ブルーム)を引き起こした可能性が高いことが示唆された。この知見について報告する論文もNature に掲載される。これらの知見は、山火事と生態系と気候の複雑な関連性を浮き彫りにしている。
気候変動による干ばつと温暖化は、大気中に二酸化炭素を放出する山火事の頻度と強度を上昇させる役割を果たし、気候変動をさらに進行させ、山火事のリスクを高める可能性がある。2019~2020年の夏季に、オーストラリアのビクトリア州とニューサウスウェールズ州の沿岸地域のユーカリ林で、ベルギーの国土の約2.5倍に相当する約7万4000平方キロメートルが焼失した。これらの山火事は、規模が非常に大きく、強度も非常に高く、大量の二酸化炭素を大気中に排出したことが知られているが、明確な排出量の推定は行われていない。
今回、Ivar Van der Veldeたちは、2019~2020年に発生したオーストラリアの山火事による二酸化炭素排出量に関する知見を得るため、人工衛星による大気中の一酸化炭素濃度の高分解能測定の結果を分析して、山火事による炭素排出量を推算した。Veldeたちは、2019年11月から2020年1月までの間に約715テラグラムの二酸化炭素が排出されたと推定している。この排出量は、これまでに5種類の火災排出インベントリーから推定された量の2倍以上で、この火災事例のボトムアップなブートストラップ解析の結果に匹敵し、オーストラリアの通常の火災と化石燃料に由来する年間排出量を80%上回っている。Veldeたちは、これらの火災によって引き起こされた二酸化炭素の大気負荷と、それらが将来何を引き起こすかをより深く理解することが、全球炭素収支の将来のシナリオを構築するために重要だと指摘している。
山火事は、炭素を排出するだけでなく、生態系に影響を与えるエーロゾルを放出する。例えば、窒素や鉄などの栄養素が遠方に運ばれて、プランクトンの成長が促進されることがある。Nicolas Cassar、Weiyi Tangたちは、2019年12月から2020年3月にかけて、山火事の風下にあたる南大洋で植物プランクトンが大増殖したことを報告している。山火事によって発生したエーロゾル試料には高濃度の鉄が含まれており、Cassarたちはエーロゾルが長距離輸送されて、プランクトンの大増殖を促進したという考えを示している。
これらの研究を総合すると、山火事が大気中二酸化炭素濃度と海洋生態系に重要な影響を及ぼし得ることが明らかになった。
doi:10.1038/s41586-021-03712-y
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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