環境:低位泥炭地を再湿潤化しても生態系は元に戻らない
Nature Communications
2021年10月6日
再湿潤化によって温帯の低位泥炭地を復元しても、元の生態系の状態には戻らないことを報告する論文が、Nature Communications に掲載される。今回の知見は、生態系復元政策にとって重要な意味を持っている。
農業や林業、泥炭採取のために低位泥炭地の干拓を行うと、大量の温室効果ガスが排出され、その地域の炭素吸収容量が減少し、生物多様性の減少を引き起こす。「国連生態系回復の10年」(2021~2030年)では、気候変動緩和ツールとしての再湿潤化を実施することで、干拓された低位泥炭地を復元するという野心的な目標が設定された。しかし、温室効果ガス排出量の削減だけでなく、生物多様性や生態系機能が有効に復元されるかどうかは明らかでない。
今回、Jürgen Kreylingたちは、ヨーロッパの低位泥炭地(563か所)を調査し、以前に干拓され、その後再湿潤化された泥炭地と、以前の状態が比較的よく保全されている近隣の泥炭地を比較した。また、Kreylingたちは、現地の植生データ、水文データ、地球化学データを収集し、衛星画像を用いて、土地被覆特性をマッピングした。Kreylingたちは、再湿潤化された低位泥炭地は、ほぼ自然状態を保っている低位泥炭地とは、植物群集と一部の生態系機能が異なっていたことを報告している。再湿潤化された泥炭地は、植物群集が変化し、地下水位の変動幅が大きく、有機物含量が少なく、泥炭のかさ密度が高かった。また、Kreylingたちは、調査対象の低位泥炭地の一部が今回の研究の数十年前に再湿潤化されたものであり、干拓された後に再湿潤化された泥炭地は、再湿潤化の時期にかかわらず、ほぼ自然状態を保っている低位泥炭地とは同じように異なっていることを明らかにした。
以上の知見は、低位泥炭地の再湿潤化による気候変動緩和の可能性に関するこれまでの研究報告と矛盾しないが、Kreylingたちは、干拓された低位泥炭地を復元しても、現存する無傷の低位泥炭地に見られる生物多様性や生態系を迅速に復元することはできないと指摘し、再湿潤化された低位泥炭地の解明と管理を向上させるためにさらなる研究を行うことを求めている。
doi:10.1038/s41467-021-25619-y
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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