神経科学:哺乳類の運動皮質のマッピング
Nature
2021年10月7日
哺乳類の一次運動皮質は、運動をつかさどる脳領域であり、その包括的な細胞センサスと細胞アトラスは、脳がどのように組織化されているかについての知識と理解を深める。今週号のNature に、17編の研究論文のコレクションが掲載され、その一部で、こうした細胞センサスと細胞アトラスが明らかにされている。このアトラスには、マウス、マーモセット、ヒトの細胞タイプから得られた情報がまとめられている。BRAINイニシアチブ細胞センサスネットワーク(BICCN)という研究コンソーシアムに所属する科学者によるこの共同研究は、脳内のいろいろな細胞タイプを定義し、それぞれのアイデンティティーが神経機能にどのように寄与するかに関して知見をもたらしている。研究対象となった3種の生物の細胞タイプを比較することで、ヒト脳疾患の治療に関する将来の研究が促進されると考えられる。
ヒトの脳は、数十億個のニューロンによって構成されており、これらのニューロンが数兆個の接続(シナプス)を形成している。ニューロンには、さまざまなタイプがあり、ニューロン同士の接続の仕方を決めたり、脳の活動や行動に影響を与えたりする特性を有している。しかし、ニューロンのタイプを厳密かつ定量的に定義することは依然として困難であり、脳がどのように組織化されているのかをマッピングし、それぞれの細胞に機能を割り当てる大規模な作業は、限定的にしか行われていない。
今回のコレクションにおける重要論文の1つでは、BICCNが哺乳類の一次運動皮質の細胞の目録とアトラスの作成を報告している。このアトラスには、同時掲載される16編の関連論文(BICCNが以前に発表した研究を含む)に示されたマウス、マーモセット、ヒトのさまざまな細胞タイプの分子的特徴、空間的特徴、形態的特徴、接続の特徴、機能的特徴に関する情報がまとめられている。著者たちは、細胞がそれぞれ独自の大まかなサブクラスに組織化され、階層のより高いレベルが約25のサブクラスで構成されていることを見いだしている。細胞サブタイプは、その遺伝子プロファイルやその他の特徴、または脳内での位置によって決まると考えられている。この階層構造は、これら3種の生物のいずれにおいても保存されており、このように細胞タイプが保存されているということは、哺乳類全体で細胞タイプが皮質の回路と機能において重要な役割を担っていることを示唆している。この異種間情報は、ヒト疾患を研究する際に、最良の動物モデルと治療標的の選択を決定する際に役立つ情報となる可能性がある。
運動皮質をマッピングする際に用いられた共同研究による学際的アプローチを拡張して、マウスの脳全体の細胞センサスを作成し、ヒトと非ヒト霊長類の脳に関する理解を深める取り組みが進められている。同時掲載のNews & Viewsでは、Silvia Arberが、「BICCNの一連の論文は、今後の新発見のための宝の山である。特に注目すべきは、多くの種類の運動を制御し、調節する上で運動皮質がどのように役立っているのかを詳細に理解することに結び付く探索的研究である」と述べている。
このコレクションは、embegoの後、次のリンクより閲覧可能です。
doi:10.1038/s41586-021-03950-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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