気候変動:温暖化する地球におけるエネルギー支出額の変化
Nature
2021年10月14日
気候変動のために全世界の年間エネルギー支出額が21世紀末までにやや純減する可能性があることを示した論文が、Nature に掲載される。ただし、エネルギー支出額の変化の程度には、気候と経済の違いに起因する地域差があると考えられ、冷却方法への投資ができる一部の熱帯・亜熱帯地域では支出額が大幅に増加すると予測されている。
温暖化がエネルギー支出額に及ぼす影響に関する従来の試算では、コストが大幅に増加することが示唆されているが、こうした予測を行うために用いられたモデルは、データによる絞り込みが十分でなかった可能性がある。今回、Solomon Hsiangたちは、世界のエネルギー支出額、エネルギーのコストと過去の気候に関するデータと、温室効果ガスの中排出シナリオと高排出シナリオでの人口・収入予測と気候予測を組み合わせて、エネルギー支出額の将来的な変化を試算した。
Hsiangたちの試算によれば、21世紀末までに気候変動によるエネルギー支出額の純節減額が、世界のGDPの0.17%(高排出シナリオ)または0.08%(中排出シナリオ)に達する可能性がある。また、現時点で大気中に排出される二酸化炭素1トン当たりの年間エネルギー支出額は、2099年までに1~3ドル(約110~330円)減少する可能性があると算出された。電力への支出額は、熱帯と亜熱帯の中所得地域(インド、中国、メキシコの一部の地域)で、空調装置などの冷却方法の使用により増加すると予測されている。しかし、以上の結果は、こうした支出が、高所得国や寒冷国における暖房用の石炭や天然ガスなどの燃料への支出額の減少によって相殺される可能性があることを示唆している。一方、低所得地域(サハラ以南のアフリカの大部分など)は、高所得地域と比べて冷却方法への投資額が低く抑えられる可能性があるが、暖房への支出額も減少すると予測されている。
今回の研究では、全世界の年間エネルギー支出額が減少することが予測されたが、この予測は、所得格差によってほぼ説明できる結果だとすると、決して良い情報ではない。このことは、同時掲載のNews & Viewsで、Katrina JessoeとFrances Mooreが繰り返し述べている。News & Viewsでは、低所得国であっても、空調装置のコストが下がり、インフラが改善すれば、予測よりも早く空調装置の使用が増える可能性のあることが指摘されている。また、気候変動はエネルギーシステムにも影響を与え、電力供給コストを増加させる可能性がある、とも記述されている。JessoeとMooreは、「温暖化がエネルギーインフラとエネルギー供給コストにどのような影響を与えるかを定量化することは、エネルギー部門における気候変動の影響を理解するための次の重要なステップである」と結論付けている。
doi:10.1038/s41586-021-03883-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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