細胞生物学:ウイルスの糖タンパク質は神経変性疾患に関連するタンパク質凝集体の拡散を後押しするかもしれない
Nature Communications
2021年10月20日
ウイルス表面上に存在し、ウイルスの標的細胞への侵入を助けている糖タンパク質が、神経変性疾患に関連するタンパク質凝集体の拡散を促進する可能性があることが、哺乳類の細胞を使った概念実証研究によって示唆された。この研究結果を報告する論文が、Nature Communications に掲載される。今回の知見は、2種のウイルスが関係する研究に基づいており、神経変性疾患が細胞から細胞へ伝播する可能性について、さらに解明が進んだ。
タウをはじめとする種々のタンパク質のミスフォールディング(折りたたみ異常)と蓄積は、神経変性疾患(プリオン病、アルツハイマー病、パーキンソン病など)の特徴だ。これまでの研究で、神経変性疾患に関連したタンパク質病のシード(病原性タンパク質凝集体)が、膜のないむき出しの凝集体を細胞外小胞(EV)の積み荷として分泌することによって、あるいは直接の細胞間接触を介して、非罹患細胞に伝播する能力を有することが明らかになっている。これらの個別の過程が、健全な細胞へのタンパク質病のシードの伝播にどの程度役立っているのかは分かっていない。
今回、Ina Vorbergたちは、EVによる伝播の場合に観察される膜接触が関与するシードの伝播や直接の細胞間接触によるシードの伝播が、細胞侵入時に部分的に制御されている可能性があるという仮説を立てた。細胞への侵入は、特異的リガンド(タンパク質受容体に結合する分子)と標的細胞表面上の細胞受容体との相互作用を介して起こる。この過程は、ウイルスの糖タンパク質(リガンドとして働く)が細胞内侵入受容体に結合してウイルス侵入を媒介するときにも観察される。Vorbergたちは、この考えを実証するために、哺乳類の細胞で、水疱性口内炎ウイルス(VSV)の糖タンパク質とSARS-CoV-2のスパイクタンパク質を用いた実験を行い、両方のウイルスの糖タンパク質がEVと細胞間伝播によるタンパク質病のシードの伝播を増強することを明らかにした。Vorbergたちは、以上の知見から、適切なリガンドがあれば、直接的な膜接触が関与する機構を介したタンパク質病のシードの伝播が可能なことが明確になっており、ウイルス感染がタンパク質病のシードの拡散を促進する可能性のあることも示されていると考えている。
Vorbergたちは、神経変性疾患におけるタンパク質凝集に対するウイルスの影響を調べるためには、さらなる研究が必要だと結論付けている。
doi:10.1038/s41467-021-25855-2
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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