生態学:マンモスステップは見事に構成された生息環境だった
Nature
2021年10月21日
マンモスステップ(独特な植生群落と野生動物群集の中でマンモスが生息していた環境)は、現代のどの生態系とも異なるユニークな生態系だったことを明らかにした論文が、Nature に掲載される。この研究は、広範な環境DNA解析に基づいており、過去5万年間にマンモスステップに生じた変化を説明するために役立ち、象徴的なマンモスの絶滅を含む大型動物相の消滅の時期と原因を解明する手掛かりになる。
マンモスステップの最盛期だった後期更新世(約5万年前)の北極の生態系がどのようなものであったかについては論争が繰り広げられており、2つの有力説が提唱されている。マンモスやバイソンなどの草食動物が1年を通して生息する広大な草原だったとする研究報告がある一方で、それよりも多様な生態系で、ステップやツンドラなどが混在し、地域的・時間的に多様な動物が共存していたとする研究報告もある。
今回、Eske Willerslevたちは、マンモスステップの構成を十分に理解するため、北極の535地点で採取された過去5万年間にわたる古代の動植物のものとされる環境DNAのサンプルを調べるとともに、北極の現生植物種(1500種以上)のDNAも解析して参照情報資源とした。Willerslevたちの見解では、マンモスステップは寒冷で乾燥した地域的に複雑なステップで、草、スゲ、被子植物、低木が生育していたと考えられ、2つの有力説の中間のどこかに位置付けられるものだったとされる。
また、今回の研究では、これまで考えられていたよりも後の時代まで生き延びた動物種が複数存在したことも明らかになった。シベリア本土でのマンモス(3900年前)、ケブカサイ(9800年前)、バイソン(6400年前)の存在を示す証拠がある。この知見は、人類が数万年間にわたってこれらの大型動物種と共存していたことと、人類の狩猟活動が大型動物種の絶滅の重要な要因ではなかったことを示唆している。絶滅が起こったのは、気候の温暖化と湿潤化が進んで、最後まで残ったステップ–ツンドラの植生が消滅して、泥炭地になった時だった。
doi:10.1038/s41586-021-04016-x
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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