生態学:猛暑や少雨の年を生き抜くサーモンは回遊時期が遅い
Nature Climate Change
2021年10月29日
米国カリフォルニア州に生息するチヌークサーモン(キングサーモン;和名マスノスケ)には、回遊時期が遅いというまれな戦略をとる個体がおり、こうした個体は、同じ個体群の他の個体と比べて干ばつや海洋熱波の年を生き延びる可能性が高いことを報告する論文が、Nature Climate Change に掲載される。今回の知見から、今後、気候変動によって環境条件が変化し続けるため、絶滅危惧種のチヌークサーモンの個体群の多様性を支援し、長期的レジリエンスを確保するための保全戦略が必要なことが示唆されている。
個体群の多様性は、生物種が自然のかく乱や人為的かく乱(気候変動を原因とするものを含む)による影響を緩和するための重要な手段だ。稚魚が生活環の一部として淡水域から塩水域への大規模な回遊を行うサケのような魚類にとっては、回遊時期を柔軟に設定できることが特に重要だと考えられる。
今回、Flora Cordoleaniたちは、春に遡上するチヌークサーモン(Oncorhynchus tshawytscha)の耳骨に蓄積されたストロンチウム同位体の比率を地理的位置マーカーとして用い、2007~2018年にカリフォルニア州セントラルバレーの2か所の小川に戻った123匹のチヌークサーモンの成魚の生活史を再構築した。そして、Cordoleaniたちは、回遊時期の遅い個体が、淡水河川で孵化した後、最初の冬や春に海洋へ回遊せずに、淡水河川にとどまって夏を過ごしており、こうした個体が、生物種が干ばつや海洋熱波の年を生き抜く上で極めて重要なことを明らかにした。
回遊時期の遅い個体は、適切に低い水温の河川に依存しているが、このような河川は、気候変動の影響で今後数年間に急速に減少すると予測されている。また、こうした河川の大部分は、通行不能なダムの上流にある。Cordoleaniたちは、個体群の多様性を維持するために生息地の連結性を考慮する必要があると強調し、このことが、チヌークサーモンの長期生存に不可欠になると結論付けている。
doi:10.1038/s41558-021-01186-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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