免疫学:SARS-CoV-2感染やワクチン接種の後に見られた神経系合併症の評価
Nature Medicine
2021年10月25日
イングランド全体で行われた成人3200万人に対する調査から、オックスフォード・アストラゼネカ社製重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)ワクチン(ChAdOx1nCoV-19)の初回接種後に、ギラン・バレー症候群とベル麻痺という稀な神経疾患が生じるリスクが、低いとはいえ上昇することが明らかになった。また、ファイザー・バイオンテック社製ワクチン(BNT162b2)の初回接種後には、出血性脳卒中のリスクが、やはり低いものの上昇していた。しかし、Nature Medicineに掲載される今回の研究では、ギラン・バレー症候群を含め、調べられた7種類の神経系症状については、SARS-CoV-2の検査で陽性となった後の方がリスクがかなり高いことが分かった。著者たちが強調するように、オックスフォード・アストラゼネカ社、あるいはファイザー・バイオンテック社製ワクチンに関連して観察された神経系の合併症は非常に少数であり、SARS-CoV-2感染の結果として起きる神経系疾患のリスクの方がずっと高い。
オックスフォード・アストラゼネカ社製ワクチンやファイザー・バイオンテック社製ワクチンを含む複数のワクチンは多くの国で使用が承認され、SARS-CoV-2の感染、伝播や入院、死亡を減少させることが明らかになっている。しかし、SARS-CoV-2感染やワクチンに関連して神経系の合併症がまれに起きることが報告されている。
神経系疾患の発生とワクチン接種やSARS-CoV-2感染との関連を調べるために、J Hippisley-Coxたちは、自己対照ケースシリーズ研究を行って、オックスフォード・アストラゼネカ社製ワクチンあるいはファイザー・バイオンテック社製ワクチンの初回接種を受けた後の28日間、あるいはSARS-CoV-2検査で陽性と判定された後の28日間に神経系の合併症で入院したかどうかを調べた。オックスフォード・アストラゼネカ社製ワクチンでは、接種後の28日間はギラン・バレー症候群を発症するリスクの上昇が見られることが分かった(ワクチン接種者1000万人当たり38症例の増加と推定される)。また、ベル麻痺のリスクも、接種後15~21日の間は高いことが分かったが、このリスクは28日という調査期間全体でみると有意ではなかった。また、ファイザー・バイオンテック社製ワクチンでは、接種後28日以内は出血性脳卒中のリスクが上昇した(1000万人当たり推定で60症例増加)。SARS-CoV-2感染の陽性判定後の同じく28日間では、調べた7種類の神経系症状のリスクが、すべてかなり高くなっていた(7種類のうち脳炎・髄膜炎、脊髄炎は1000万人当たり123例、筋無力症は163例、ギラン・バレー症候群は145例の増加)。著者たちは、スコットランドの300万人以上からなる全く別の国内コホートでも同様の結果を得ており、オックスフォード・アストラゼネカ社製ワクチンとギラン・バレー症候群の関連が裏付けられた。
これらの結果は、ワクチンプログラムのリスク・ベネフィット評価だけでなく、こういった神経系の稀少な合併症についての臨床決定やリソース配分にも有用な情報を提供するだろうと、著者たちは予想している。これらの知見は、英国以外の国にも当てはまる可能性が高いが、同じような大規模データセットでこれらの知見を国際的に再現できれば役に立つだろう。
doi:10.1038/s41591-021-01556-7
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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