がん:パーム油に含まれる脂肪酸がマウスの腫瘍転移を促進する
Nature
2021年11月11日
マウスの口腔がん細胞と皮膚がん細胞をパーム油に含まれる食餌脂肪酸に高濃度で曝露 すると、それらの細胞の転移が促進されることを明らかにした論文が、Nature に掲載される。
脂肪酸の吸収と代謝に変化が生じることは、がんの転移(がん細胞が体の他の部位に広がる過程)に関連していることが、すでに明らかになっている。しかし、具体的にどの食餌脂肪酸がこれらの変化の原因となり、どのような生物学的機構が関係しているのかは不明だ。
今回、Salvador Benitahたちは、ヒトの口腔がん細胞と皮膚がん細胞をパルミチン酸(パーム油に含まれる主要な飽和脂肪酸)、オレイン酸、リノール酸という3種類の食餌脂肪酸のいずれかに4日間曝露した後、標準的な食餌を与えたマウスの対応する組織に移植した。調べた脂肪酸はいずれも腫瘍のイニシエーションに影響を及ぼさなかったが、パルミチン酸は、既存の転移病変の浸潤性とサイズの両方を有意に増大させることが分かった。オレイン酸とリノール酸の場合には、そのような有意な効果は認められなかった。
転移しやすいがん細胞には、高濃度のパルミチン酸に曝露されたことの「記憶」も保持されていた。例えば、パーム油を多く含む食餌を10日間だけ与えられたマウスの腫瘍や、実験室で(正常培地に戻すまでの)4日間だけパルミチン酸に一時的に曝露された腫瘍細胞は、通常の食餌を与えたマウスに移植した場合でも、高い転移性を維持していた。この過程は、転移細胞のエピジェネティックな変化(DNA自体を変化させることなく遺伝子発現のパターンを変化させる分子修飾)と関連しており、これが長期的な転移の促進を媒介すると考えられる。
Benitahたちは、この知見が新しい治療法の特定に役立つ可能性があると結論付けている。
doi:10.1038/s41586-021-04075-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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