気候変動:発電所の戦略的廃止によって気候変動緩和の健康上の利益が増える可能性
Nature Climate Change
2021年11月30日
気候-エネルギー緩和政策が実施されて1.5℃の地球温暖化の回避に成功することを前提にすると、高汚染型発電所を戦略的に廃止することで、2010~2050年に世界中でさらに累積600万人の命を救える可能性があることが明らかになった。この知見を報告する論文が、Nature Climate Change に掲載される。今回の知見から、気候変動を緩和することの健康上の利益が、汚染管理技術の導入や高汚染型発電ユニットの廃止などの補助プログラムに依存している可能性が示唆された。
化石燃料やバイオマスを燃焼させる火力発電所からのCO2排出量を削減すると、気候と公衆衛生上の利益がもたらされることがよく知られており、こうした利益は、大気汚染の削減によって生じる。しかし、個々の発電所の管理方法の違いが公衆衛生にどのように影響するかについては、解明が進んでいない。
今回、Qiang Zhangたちは、一連の気候-エネルギー緩和政策シナリオの下、個々の発電所レベルでの世界のCO2排出量と大気汚染関連死の差異をモデル化した。2010~2018年に、発電所からのCO2排出に関連した早期死亡の約92%が、低所得国や新興経済圏(中国、インド、東南アジア諸国など)で発生したと推定され、こうした早期死亡は、今後の気候-エネルギー政策の軌跡に影響される可能性が高い。Zhangたちは、気候-エネルギー政策が実施されて1.5℃の地球温暖化の回避に成功することを想定した最も野心的なモデルを例にとると、最も汚染が深刻で有害な発電所を戦略的に廃止すれば、気候-エネルギー政策だけを実施する場合と比べて、将来のCO2排出量を累積で18%(430億トン)削減でき、2010~2050年に予測されている死亡数を累積で100%(600万人)削減できる可能性があることを明らかにした。
Zhangたちは、今回の研究によって、気候変動緩和政策を実施しても、大気の質の改善と大気汚染関連死の減少が必ずしも保証されないことが示されたと結論付け、むしろ、緩和政策の健康上の利益がどの程度実現されるかは、汚染管理と発電所の戦略的廃止によって決まるのかもしれないと述べている。
doi:10.1038/s41558-021-01216-1
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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