量子物理学:量子センサーを用いた地表下探査
Nature
2022年2月24日
原子を使ったセンサーが、重力場の変化を正確に測定して、地表下の地形を検出することを実証した論文が、Nature に掲載される。今回の研究は、量子センシングが地下を検査するための新しい手段となり、地質構造のマッピングや考古学的人工物の測定に役立つかもしれないという考えを裏付けている。
重力場の変動を検出するセンサーは、地表や地表下の大規模な構造をマッピングする可能性を秘めている。例えば、電気機械式重力計は、地球物理学的調査に使用されてきた。しかし、この技術をもっと小さなスケール(およそメートルスケール)で、例えば建築現場などで使用するのは、移動する車両や他の構造物などからの局所的な雑微動や振動を除去するために長い測定時間が必要となるため、難しい。
今回、Michael Holynskiたちは、重力の絶対値ではなく重力差を測定することによって雑微動の影響を抑制すれば、こうした制約を克服できると説明している。量子系を使えば、これが実現できる。量子系は、周囲の環境に対する感度が高いため、理想的なセンシング手段だ。Holynskiたちの設計は、原子を用いたデバイスの形で実現され、このデバイスの感度の高さは、英国バーミンガム市の都市環境での調査を行うことで実証された。このデバイスは、2つの高層ビルの間の道路の地下にあるトンネル(断面寸法が縦横2メートル)を検出した。
Holynskiたちは、このセンサーはさまざまな用途に使用できる可能性があると考えている。土木エンジニアは、このセンサーを使ってブラウンフィールドの地域を検査し、新規建設工事に影響を与える得る地表付近(地表下10メートル)の地形を調べることができるかもしれない。また、考古学者にとっては、地下に隠された墓や建造物の地図を作る際に役立つ可能性がある。さらに、このセンサーを用いて地質学的特徴(帯水層や土壌密度など)を測定し、含水量を評価できるかもしれない。
doi:10.1038/s41586-021-04315-3
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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