天文学:天文学研究で炭素排出量に最も影響する研究施設
Nature Astronomy
2022年3月22日
宇宙空間に打ち上げられた観測施設や地上に設置された観測施設は、天文学研究での炭素排出量に最も影響を与えており、二酸化炭素に換算して1年当たり少なくとも120万トンの温室効果ガスを排出していると推定されることを報告する論文が、Nature Astronomyに掲載される。これらの結果は、パリ協定の目標を達成するために、将来の観測施設や宇宙ミッションの開発に対して、より持続可能で、ゆっくりとしたペースの取り組みが必要であることを強調している。
近年、天文学研究による気候への影響が議論されており、天文学研究活動に伴う炭素排出量、例えば、学会への航空機による移動やスーパーコンピューターによるシミュレーションの実行などが、主要な炭素排出源と考えられている。
今回、Jürgen Knödlsederたちは、フランス環境エネルギー管理庁(ADEME)とフランスカーボンフットプリント協会(ABC)によって開発された手法に従って、およそ50の宇宙望遠鏡と40の地上に設置された望遠鏡について、構成素材、運用コスト、電力使用量、また宇宙ミッションと人工衛星のミッションの場合は打ち上げ時質量に基づいて、温室効果ガス排出量を見積もった。その結果、世界中で稼働している天文学研究施設の総炭素排出量は、二酸化炭素に換算して約2030万トンに上り、年間排出量は約120万トンであることが明らかになった。この年間排出量は、業務に関連する航空機での移動による推定排出量のおよそ5倍で、宇宙ミッションは総排出量の少なくとも1/3を占めていた。Knödlsederたちは、ジェイムス・ウェッブ宇宙望遠鏡やスクエア・キロメートル・アレイなどの研究施設が、それぞれ少なくとも30万トンの二酸化炭素に相当する炭素排出量に関与するだろうと見積もっている。これらの数字は、今回の調査で見積もられた研究施設の中で最も多くの炭素排出量を示している。
Knödlsederたちは、ADEMEの提言に基づいて、この調査でそれぞれの研究施設の炭素排出量の推定値に80%の不確実性率を採用したと述べている。関連するNews & Viewsでは、Andrew Wilsonが、「今回の結果は、むしろ予備的な推定値と考えるべきである」とする一方で、「より確実な、過程に基づいたデータがないことを考慮すれば、今回報告された結果は、より詳細な分析への重要な出発点となる知識への洞察と貢献をもたらす」とコメントしている。
Knödlsederたちは、スローサイエンスに対するコミュニティーの動き(例えば、新しいデータを取得するよりもデータアーカイブを活用することや、論文出版の圧力を減らすことなど)と並んで、天文学のインフラ整備をゆっくりとしたペースで進めることが、将来の持続可能性にとって重要であると結論付けている。
doi:10.1038/s41550-022-01612-3
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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