神経科学:完全閉じ込め状態にある患者のための意思伝達装置
Nature Communications
2022年3月23日
完全閉じ込め状態にある患者の脳信号から文字を解読するというコンピューターを使った意思伝達方法が実証されたことを報告する論文が、今週、Nature Communications に掲載される。今回の知見は、完全閉じ込め状態にある患者が、脳–コンピューター・インターフェース(BCI)を用いて言語コミュニケーションを行える可能性があることを示唆している。
BCIは、動くことも話すこともできなくなった人との意思疎通を回復できる。この分野の研究では、随意的な筋制御が次第に失われる神経変性疾患である筋萎縮性側索硬化症(ALS;運動ニューロン疾患と呼ばれることもある)の患者の意思伝達能力を維持することが大きな焦点になってきた。ALS患者が眼球運動や顔面筋を用いて意思伝達できるようにする方法が、すでにいくつか開発されているが、これらの方法では、筋肉の制御ができなくなると、患者の意思伝達能力が失われる。
今回、Ujwal Chaudharyたちは、完全閉じ込め状態にあり、随意的な筋制御ができないALS患者(34歳、男性)の脳にBCIの一種である聴覚ニューロフィードバックシステムを埋め込んだ実験を行い、この男性患者が、1分間に平均約1文字の速度で意思伝達するための単語や語句を生成したことを明らかにした。この実験で、Chaudharyたちは、患者に対し、神経活動の聴覚フィードバックを与え、脳内のニューロンの発火率を制御することによりフィードバック音の周波数を標的音の周波数に合わせるよう指示した。ニューロンの発火率の変化が、所与の範囲の上限または下限において、250 msよりも長く続いた場合、それぞれ「はい」または「いいえ」と解釈された。また、この男性患者は、聴覚フィードバックに基づいてニューロンの発火率を調節し、自分のニーズを伝えるために単語や語句を形成する文字を選択することができた。
今回の研究で得られた知見は、意思疎通のできない患者が、口頭で意思を伝えられるようになることを意味している。この装置が臨床的に広く使用されるまでには、BCIの寿命、他の患者への適用性、安全性と有効性をさらに実証することが必要とされる。
doi:10.1038/s41467-022-28859-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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