神経科学:パーキンソン病患者の脳内で選択的に消失するニューロンが見つかった
Nature Neuroscience
2022年5月6日
ヒトの脳試料を調べた結果、パーキンソン病において選択的に消失するドーパミン放出ニューロンの特定のサブタイプが見つかった。この研究結果を報告する論文が、Nature Neuroscience に掲載される。
パーキンソン病は、動作の緩慢、ふるえ、こわばり、平衡感覚障害と協調運動障害を特徴とする神経変性疾患で、中脳の黒質緻密部(SNpc)に存在するドーパミンニューロン(神経伝達物質ドーパミンを放出するニューロン)の変性が原因とされる。ドーパミンニューロンが選択的に変性する理由は不明であり、この過程を遅らせる治療法は現在のところ存在しない。
今回、Evan Macoskoたちは、ヒトの脳試料からドーパミンニューロン(合計2万2048個)を単離し、その遺伝子発現を測定した結果、ドーパミンニューロンのサブタイプ(10種類)を発見した。そして、パーキンソン病患者と非罹患者の測定結果を比較したところ、黒質緻密部の腹側に位置し、AGTR1遺伝子の発現によって特定可能なサブタイプが、パーキンソン病患者の脳内で消失していることが多かった。これは、このニューロンのサブタイプがパーキンソン病に対して最も脆弱なことを示唆している。また、このサブタイプは、パーキンソン病の発症リスクを生み出す遺伝子の発現が最も高く、このことによって脆弱性を説明できる可能性がある。
以上の結果は、パーキンソン病の原因について、ニューロン集団全体でニューロンの消失が均等に起こるからではなく、ドーパミンニューロンの特定の一部が消失するからである可能性を示唆している。このニューロンのサブタイプに関する知見が集積されれば、このサブタイプを特異的に標的とするパーキンソン病の治療法を開発することが可能になるとMacoskoたちは結論付けている。
doi:10.1038/s41593-022-01061-1
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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