宇宙生物学:月での植物栽培に向けた小さな一歩
Communications Biology
2022年5月13日
月で植物を育てる計画の実行可能性を調べるためにシロイヌナズナを栽培する実験が行われ、アポロ計画のミッションで採取された月の土壌試料で栽培したものの方が、地球上で採取された火山灰で栽培したものよりも成長が遅く、ストレスの兆候が多く見られることが示された。この知見について報告する論文が、Communications Biology に掲載される。今回の知見は、月の土壌で植物を効率的に育てるためには、植物と月の土壌の相互作用についてさらに研究を進める必要のあることを強調している。
今回、Robert Ferlたちは、アポロ11号、12号、17号の月探査ミッションで採取された12点の土壌試料を使って、ユーラシアやアフリカが原産の被子植物であるシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)を栽培し、月の土壌で植物の生存が維持されるかを検証した。これらの土壌試料は、それぞれのミッションで、異なる土壌層から採取されたもので、アポロ11号の試料は、アポロ12号やアポロ17号の試料よりも長い期間にわたって月の表面に曝露されていた。Ferlたちは、これらのシロイズナズナを、月の土壌と粒径や鉱物組成が類似している地球の火山灰の試料16点を使って栽培したシロイヌナズナと比較して、成長と遺伝子発現に違いがあるかを調べた。
その結果、実生のシロイヌナズナは全ての土壌条件で成長したが、月の土壌で栽培したシロイヌナズナは、火山灰で栽培したシロイヌナズナより成長が遅く、葉が伸びるまでに時間がかかり、根が発育不良になることが多いことが分かった。月の土壌で栽培したシロイヌナズナの中には、火山灰で栽培したシロイヌナズナと形と色が似たものと、発育不良で鉄色(赤みがかった黒色)の色素を含むものがあった。後者の特徴は、一般的に植物のストレスを示している。成長が遅く、色が濃いシロイヌナズナ3点の遺伝的解析から、1000以上の遺伝子(そのほとんどがストレスに関連した遺伝子)の発現量が、火山灰で栽培したシロイヌナズナと異なっていることが判明した。また、アポロ11号の試料で栽培したシロイヌナズナは、アポロ12号や17号の試料で栽培したものほど成長しなかった。火山灰試料で栽培したものと発現量の異なる遺伝子の数についても、アポロ11号の試料で栽培したシロイヌナズナの方が多く、それぞれ465遺伝子(アポロ11号の試料)、265遺伝子(アポロ12号の試料)、113遺伝子(アポロ17号の試料)だった。これらの遺伝子の71%は、塩、金属、活性酸素含有分子によって引き起こされるストレスと関連していた。
今回の知見は、月の土壌(特に月の表面に曝露されていた期間の長い土壌)は植物の栽培に使用できるが、火山灰ほど植物の生育を維持しないことを示している。Ferlたちは、月の土壌が宇宙線や太陽風によって損傷したことに加え、土壌中に小さな鉄粒子が含まれていることが、植物にストレス応答を引き起こし、その成長を損なっているのかもしれないと推測している。
doi:10.1038/s42003-022-03334-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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