保全:監視されていなかったクモ類の国際取引の実態が明らかになった
Communications Biology
2022年5月20日
世界中で取引されているクモ類種は、過去と現在を合わせて1200種以上で、そのうちの約80%は監視対象になっていないことを報告する論文が、今週、Communications Biology に掲載される。今回の研究で、数百万匹ものクモ、サソリ、およびそれらの近縁種が売買されていることが明確になり、こうした取引を監視して生物多様性の減少を防ぐことが緊急に必要なことが示された。
今回、Alice Hughesたちは、米国法執行管理情報システム(LEMIS)と絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(CITES)のそれぞれの国際取引データベースに、全世界のクモ類のオンライン小売業者の系統的検索結果を組み合わせて、2000~2021年のクモ類の国際取引を調べた。その結果、過去または現在に1264種のクモ類が取引されており、そのうちの993種(79%)は、クモ類の販売業者のウェブサイトに掲載されているが、上述の国際取引データベースには含まれていないことが明らかになった。これは、これらのクモ類種の取引が現在のところ監視されておらず、これらの種が、持続可能でない捕獲や取引に対して脆弱である可能性を示している。取引量の多いクモ類種の中では、ダイオウサソリの77%が、調査期間中に野生の状態で捕獲され、米国だけで約100万匹が輸入されていた。また、タランチュラ種の50%以上が取引され、そこには一般的なペット種であるチリアンローズタランチュラを含む分類群Grammostola tarantulasが60万匹含まれていた。取引されているクモ類種の全個体の3分の2は野生の状態で捕獲されたと報告されており、Hughesたちは、それらが持続可能でない規模で捕獲された場合、野生個体群に悪影響を及ぼすかもしれないという見解を示している。
さらに、Hughesたちは、クモ類の取引とその影響を監視する上で何が障壁になっている可能性があるのかを明らかにするため、国際自然保護連合(IUCN)による評価対象種とCITESの規制対象種を調べた。その結果、100万種以上の既知の無脊椎動物種のうち、IUCNの評価対象種は1%未満にすぎず、CITESの規制対象種は、無脊椎動物種の取引のごく一部だったことが分かった。例えば、既知のクモ種5万2060種のうち、CITESの規制対象種はわずか39種だった。これは、取引されている無脊椎動物種の脆弱性が現在のところ不明であり、規制されていない取引が多いことを示している。
Hughesたちは、大部分のクモ類種のデータが不足しているため、脆弱性の評価や適切な管理・保全政策の策定が現在のところほぼ不可能である一方で、繁殖率が低く、生息範囲が狭いクモ類種が特に脆弱になっているという見解を示している。またHughesたちは、野生のクモ類種の生息地分布と保全状況の理解を深めることに加えて、クモ類の取引の監視と規制を強化することが、取引が自然個体群に及ぼす影響を理解し、生物多様性の減少を防ぐために必須だと付言している。
doi:10.1038/s42003-022-03374-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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