がん:がんワクチン設計の改善
Nature
2022年5月26日
ワクチンによって誘発される免疫攻撃に対する腫瘍の防御応答を阻害する、新しいタイプのがんワクチンについて報告する論文が、Nature に掲載される。この前臨床研究の予備的結果によって、このワクチンの有効性と安全性が、マウスと非ヒト霊長類で実証された。今回の知見は、今後、このワクチンの臨床への適用可能性を検証する道を開くかもしれない。
大部分のがんワクチンは、腫瘍細胞で発現する特異的な細胞表面タンパク質(抗原)を標的とし、免疫系がこれらの腫瘍細胞を認識し、攻撃するのを助ける。しかし、これらの抗原の性質と免疫原性(免疫応答を刺激する能力)には個人差があり、ユニバーサルワクチンの開発に対する制約になっている。また、腫瘍細胞は、変異したり抗原提示を変化させたりして、認識されにくくすることによって、免疫攻撃を回避することが多い。
今回、Kai Wucherpfennigたちは、2つの主要なタイプの免疫細胞[T細胞とナチュラルキラー(NK)細胞]を標的とし、腫瘍抗原の影響を受けない全面的で協調的な免疫攻撃を誘発することによって、腫瘍免疫における個人差を克服できる、新たながんワクチンの設計を報告している。このワクチンは、2つのタイプの表面タンパク質(MICA、MICB)を標的とする。MICAとMICBは、さまざまなヒトのがんにおいて、ストレスを受けると発現が増えるストレスタンパク質で、T細胞とNK細胞は、通常、これらのストレスタンパク質と結合することによって活性化される。これに対して、腫瘍細胞は、MICAとMICBを切断して排出することによって、この免疫攻撃を回避できる。今回設計されたワクチンは、この切断を防ぐことができ、それによってストレスタンパク質の発現を増やし、その結果、T細胞とNK細胞の協調的な二重攻撃を誘発しやすくする。Wucherpfennigたちは、マウスモデルとアカゲザルモデルを用いた予備実験において、このワクチンが有効かつ安全なことを明らかにしている。
Wucherpfennigたちは、こうした初期の研究結果から、このワクチンが回避変異を有する腫瘍に対しても防御免疫を促進できることが明らかになったと結論付けている。このワクチンをヒトに投与した場合にもこのようなことが可能かを評価するためには、今後、臨床試験が必要になる。
doi:10.1038/s41586-022-04772-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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