量子コンピューティング:量子コンピューティングへの明るい展望を開くフォトニックプロセッサー
Nature
2022年6月2日
スーパーコンピューターで9000年以上かかるタスクを、わずか36マイクロ秒で実行してしまう量子フォトニックプロセッサーについて報告する論文が、今週、Nature に掲載される。このシステムは、過去に実証されたフォトニックデバイスに対して数々の改善点があり、量子コンピューターの作製に向けた重要な一歩となる可能性がある。
量子デバイスの主要な目標の1つは、古典的システムの性能を上回り、「量子優位性」を確立することだが、この目標を達成した実験の報告件数は少ない。古典的コンピューターに対する量子システムの優位性を実証する方法の1つが、ネットワークにおける光子の伝播の特徴を示す未知の確率分布からサンプリングするタスク(ガウスボソンサンプリング)の実行速度を比較することだ。このタスクを従来のコンピューターで実行する場合の所要時間は計算できるようになっている。このタスクに関しては、光子数の閾値があり、それを超えると、古典的コンピューターは合理的な時間内で計算処理できない。
過去に報告されたガウスボソンサンプリングを行う実験では、固定された鏡とレンズのネットワーク内を伝播する最大113個の光子が用いられた。今回、Jonathan Lavoieたちは、最大219個(平均125個)の光子を検出できるプログラム可能な単一のフォトニックプロセッサー(名称Borealis)で行った実験を報告している。これは、フォトニクスを用いた量子優位性の実験として、これまでに報告されたものの中で最大のものだとLavoieたちは主張している。Borealisは、他のフォトニックプロセッサーと比べて性能が改善されており、光子検出実験の簡素化、再プログラム可能性の導入と「スプーフィング」(量子結果を古典的アルゴリズムで再現できる可能性のあること)に対する脆弱性の低減によって実現された。今回の実験が注目に値するのは、プログラム可能なフォトニックプロセッサーの方が、これまでの原理実証実験よりも商用量子デバイスの形態に近いからだ。
同時掲載のNews & Viewsでは、Daniel Jost Brodが、今回の研究は「技術的諸課題を解決しており、これによって実現可能な量子コンピューターへの長期的な競争で我々が先行できるかもしれない」と指摘している。
doi:10.1038/s41586-022-04725-x
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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