気候変動:再生可能エネルギー証書は企業の温室効果ガス排出削減目標の基盤を損なう
Nature Climate Change
2022年6月10日
企業が再生可能エネルギー証書を利用して温室効果ガス排出量を削減したと発表することが、科学に基づいた温室効果ガス排出削減目標(SBT)の基盤を損なう可能性のあることが明らかになった。この知見は、各企業の温室効果ガスの排出削減を正確に算出することの必要性を実証している。この研究について報告する論文が、Nature Climate Change に掲載される。
各企業は、温室効果ガス排出量を削減し、パリ協定に定める気温上昇抑制の目標を達成しなければならないという圧力の高まりに直面している。現行の温室効果ガス排出量の算出基準によれば、企業は、購入したエネルギーのうち、再生可能エネルギー証書に記載されたエネルギー量について温室効果ガス排出量をゼロと報告できる。再生可能エネルギー証書とは、再生可能エネルギー源を用いて生成され、エネルギー供給網に組み込まれた1メガワット時の電力(または熱、蒸気、冷却)を証明する取引可能な証書のことだ。しかし、企業による再生可能エネルギー証書の購入が、実際に温室効果ガスの排出削減につながるかどうかという点には疑問がある。
今回、Anders Bjørnたちは、2015~2019年の115社の開示データ(報告された温室効果ガス排出量とその算出方法に関する情報を含む)を用いて、これらの企業が、購入したエネルギーの使用に伴う温室効果ガス排出量を31%削減したと報告したが、ここで報告された削減量の3分の2については、実際には温室効果ガスの排出削減につながる可能性の低い再生可能エネルギー証書が関係していたことを明らかにした。Bjørnたちによれば、実際の温室効果ガス排出量の削減率は約10%で、これでは気温上昇を産業化以前の水準と比較して1.5℃に抑えるというパリ協定の目標を達成できず、2℃を十分に下回る水準という目標をかろうじて守れる程度だとされる。
Bjørnたちは、企業の温室効果ガス排出量の算出基準において、再生可能エネルギー証書の利用を制限し、実際の排出削減につながることが証明されたもののみを承認すべきだという考えを示している。
doi:10.1038/s41558-022-01379-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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