神経科学:物質嗜癖の解消に関連する脳のネットワークが見つかる
Nature Medicine
2022年6月14日
ヒトのタバコ嗜癖の自然寛解につながる脳損傷はどれも、共通する1つの脳ネットワークの一部分に影響を及ぼしていることが明らかになった。さらに、このネットワークはさまざまな物質嗜癖に共通していることを示す証拠があり、これはこのネットワークがニューロモデュレーション療法の新しい標的になる可能性を示唆している。
物質嗜癖は公衆衛生における重大な問題であり、特に若い世代では主な死因の1つになっている。ニューロモデュレーション療法(神経外科的破壊や脳刺激など)は有望な治療選択肢であるが、治療標的が明確になっていないことで効果が限られている。脳卒中のような傷害によって生じた脳損傷は、まれに嗜癖の寛解につながることがある。つまり、嗜癖治療に役立つ結果となるような損傷は、こうした治療の標的を見つけ出すのに役立つかもしれない。
J Joutsa、M Foxたちは、タバコ嗜癖の患者129人(男性が60%、平均年齢56歳)が脳の局所的損傷を経験した際の脳のスキャン画像を分析した。129人のうち34人は、脳の損傷後に嗜癖の自然寛解(受傷後すぐに喫煙が容易にやめられ、喫煙渇望や喫煙再開の証拠がない状態と定義)を経験していた。嗜癖の寛解をともなう損傷は脳の複数の部位に生じていたが、すべてが1つの特別な脳ネットワークに位置付けられる可能性が明らかになった。これとは全く別の脳損傷患者群でも、タバコ以外の物質嗜癖の寛解へのこのネットワークの関わりが再現された。この中には、アルコール嗜癖のリスクが軽減した患者や、損傷によりニコチン以外の物質への嗜癖が解消した症例などが含まれる。
これらの知見は、乱用を引き起こすさまざまな物質への嗜癖に共通して関わる1つの脳ネットワークの存在を示しており、嗜癖治療のためのニューロモデュレーション療法の新しい標的の発見につながる可能性があると、著者たちは結論している。しかし彼らは、さらなる研究、特にこのような標的に関連する可能性のある副作用についての研究は必須だろうと付け加えている。
doi:10.1038/s41591-022-01834-y
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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