古生物学:獲物に吸い付いて離れなかった古代の頭足類種
Scientific Reports
2022年6月24日
タコ、イカ、コウイカに近縁の古代生物種Vampyronassa rhodanicaの化石標本の新たな分析が行われ、外洋での活発な獲物の狩猟に十分に適応するまでの過程に関する仮説が示された。V. rhodanicaは、獲物に吸い付くと離れなくなる吸盤を持っており、この点で、現生の子孫種であるVampyroteuthis infernalis(コウモリイカ、吸血イカ)とは異なっており、この現生種は、水中を漂う有機物を餌にしている。この研究結果を報告する論文が、Scientific Reports に掲載される。
V. infernalisは、海岸線から離れて、酸素量が非常に少なくなることの多い極深海環境に生息しているが、その近縁種で最古のものの1つと考えられているのがV. rhodanicaだ。しかし、V. rhodanicaは、体のほとんどが軟組織で形成されているために化石で発見されることが稀で、その身体的特徴は、あまり分かっていない。
今回、Alison Roweたちの研究チームは、1億6400万年前のものとされるラ・ヴルト=シュル=ローヌ(フランス・アルデシュ県)で出土した保存状態の良好なV. rhodanicaの化石を、非破壊3次元画像化によって再分析した。この化石標本は、体長約10 cmと小さく、細長い楕円形の胴体と8本の腕と2つの小さなひれがあった。
V. infernalisの場合と同様に、V. rhodanicaの吸盤にはギザギザがついていなかった可能性が高いと考えられた。しかし、この化石標本には、2本の特殊化した長い背腕とその先端に頑強な吸盤があったことを示す証拠があった。
Roweたちは、V. infernalisの実例をもとに、V. rhodanicaが、これらの吸盤を用いて防水シールを作り出し、十分な吸引力を確保していたという仮説を提示し、この吸盤が、獲物の扱いと保持にも役立ったと考えている。
Roweたちは、それぞれの腕に付いていた筋肉性の吸盤と獲物を検知するための円錐形の感覚付属器からV. rhodanicaが活発な捕食狩猟生物だったことが示唆されるという見解を示している。その子孫にあたる日和見種のV. infernalisは、対照的な特徴を示しており、低エネルギーの深海生活様式に適応した。
doi:10.1038/s41598-022-12269-3
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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