ゲノミクス:イヌには2系統の祖先があったことを示唆するハイイロオオカミのゲノム
Nature
2022年6月30日
過去10万年間のヨーロッパ、シベリア、北米のオオカミの古代ゲノムの解析が行われ、イヌが、西ユーラシアよりも東ユーラシアの古代オオカミに近縁だったことが明らかになった。今回のゲノム解析では、後期更新世(約12万9000~1万1700年前)の自然選択が検出された。この研究成果を報告する論文が、今週、Nature に掲載される。
ハイイロオオカミ(Canis lupus)は、初めて家畜化された動物種で、他の多くの大型哺乳類が絶滅した最終氷期を通して北半球のほとんどの地域に生息していた。イヌがハイイロオオカミに由来する動物種であることは明らかだが、それが、いつ、どこで、どのようにして起こったのかについては意見が一致していない。
今回、Pontus Skoglund、Anders Bergstromたちは、この進化史を解明するため、ヨーロッパ、シベリア、北西アメリカのオオカミの古代ゲノム(66点)の塩基配列を新たに解読した。これらのゲノムには、以前に配列解読されたオオカミの古代ゲノム(5点)と過去10万年間のコーカサス地方のドール(Cuon alpinus)の古代ゲノムが含まれていた。ドールは、野生のイヌの一種で、中央アジア、南アジア、東アジアと東南アジアの在来種だ。ゲノム解析の結果、数々のオオカミの集団が、後期更新世を通して遺伝的につながっていたことが判明した。これは、おそらく、オオカミに開けた土地を縦横に移動する能力が備わっていたことによると考えられる。こうしたオオカミ集団の結合性によって、自然選択、具体的には4万~3万年前にIFT 88遺伝子の変異が増加したことが確認された。これが、オオカミ種の生存に寄与した可能性がある。この生存優位性の原因となったIFT 88遺伝子の形質は分かっていない。
Skoglundたちは、シベリア、南北アメリカ、東アジア、ヨーロッパの初期のイヌの祖先のほぼ100%に寄与したと考えられる東ユーラシア関連のオオカミ種を発見した一方で、中近東とアフリカのイヌの祖先の半分までが、現在の南西ユーラシアのオオカミに関連した独自の集団に由来することも発見した。このことは、独自の家畜化があったこと、または地域のオオカミとの交雑があったことのいずれかを意味している。今回の研究で解析対象となったゲノムの中には、この2種類のイヌの祖先のゲノムと直接一致するものはなかった。
現代のイヌの祖先の同定をさらに進めるためには、今後、世界の他の地域のオオカミの古代ゲノムに関する研究を積み重ねる必要がある。
doi:10.1038/s41586-022-04824-9
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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