微生物学:腸内ウイルスは唾液を介して伝播する
Nature
2022年6月30日
腸内ウイルス(ノロウイルス、ロタウイルスなど)は、唾液を介して伝播する可能性のあることが、マウスの研究で示唆された。この研究について報告する論文が、Nature に掲載される。今回の研究で得られた知見は、腸内ウイルスに関して、これまで知られていなかった感染経路を明らかにした。そのため、ウイルスの拡散を抑制する対策として、衛生技術の改良が必要となる可能性がある。
腹痛、嘔吐や下痢を引き起こす腸内ウイルスは、糞口経路を介して伝播するという見解が広く受け入れられている。つまり、ウイルスの宿主の糞便中のウイルスが(例えば糞便に汚染された食物の摂取によって)他人の体内に入り、腸管内で複製して糞便中に排出され、複製サイクルが続くのだ。また、腸内ウイルス感染者の唾液から腸内ウイルスのゲノムRNAが検出されたが、この観察結果の原因は腸内汚染物質だと考えられてきた。ところが、今回、Nihal Altan-Bonnetたちは、腸内ウイルスがマウスの唾液腺に感染し、唾液が、他の個体にウイルス感染を伝播することを示す証拠を提示した。
今回の研究では、仔マウスにマウスノロウイルス、またはマウスロタウイルスを接種する実験が行われ、接種から数日後に母マウスにもウイルス感染の徴候が見られた。母マウスの乳腺を調べたところ、マウスノロウイルス、またはマウスロタウイルスのゲノムRNAが検出されたのだ。この結果は、乳腺が腸内ウイルスの複製部位である可能性を示しており、母マウスの乳を飲んでいた仔マウスがウイルスの伝播経路であることを示唆している。また、成体マウスを使った実験では、マウスノロウイルス、またはマウスロタウイルスの(全部ではなく)一部ウイルス株の複製が唾液腺で起こることが明らかになり、ウイルスに感染した成体マウスの唾液を仔マウスに接種すると、仔マウスがウイルスに感染した。
唾液腺で腸内ウイルスの複製が起こるという発見は、ウイルスと治療法開発の研究にとって重要な意味を持っている可能性がある。Altan-Bonnetたちは、「ミニ唾液腺」(マウス、またはヒトの唾液腺細胞に由来するオルガノイド)を用いて、マウスとヒトのノロウイルスを培養できるかもしれないことを実証した。これらの「ミニ唾液腺」オルガノイドシステムは、現在、研究目的でノロウイルスを複製するために使用されている「ミニ腸管」オルガノイドシステムに対する安価で使いやすい代替品となるかもしれない。
doi:10.1038/s41586-022-04895-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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