素粒子物理学:この10年間のヒッグス粒子研究で分かったこと
Nature
2022年7月4日
欧州原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器でヒッグス粒子が初めて観測されたことが報告されて10年が経過した。今回、ヒッグス粒子の性質に関する最新の研究成果を示したATLAS共同実験グループとCMS共同実験グループによる2編の論文が、Nature に掲載される。
2012年7月にATLAS共同実験グループとCMS共同実験グループは、ヒッグス粒子が有すると予測されていた性質を有する素粒子を発見したと報告した。それ以降、その30倍以上の数のヒッグス粒子が検出され、その振る舞いが素粒子物理学の標準模型と一致するかどうかを検証する研究が行われてきた。
今回の論文で、ATLAS共同実験グループとCMS共同実験グループは、大型ハドロン衝突型加速器のRun 2(2015〜2018年)で取得したデータの解析結果を示している。両グループの研究者が調べた重要な問題は、ヒッグス粒子が他の素粒子とどのような相互作用をするのかということだった。素粒子物理学の標準模型の理論によれば、素粒子の質量は、ヒッグス粒子との相互作用の強さに比例する。ATLAS共同実験グループとCMS共同実験グループは、この10年間に取得したデータを基に、既知の最も重い素粒子(トップクォークとボトムクォーク、ZボソンとWボソン、タウレプトン)とヒッグス粒子の相互作用を妥当な誤差の範囲内で推定することができた。これらの素粒子全てのデータは、素粒子物理学の標準模型によって予測された振る舞いと実験誤差内で正確に一致している。
過去10年間の研究の進展は、今後の10年間も続くと予想されている。ヒッグス粒子の重要な性質のうち、ヒッグス粒子同士の結合やヒッグス粒子と軽い素粒子との結合などは、まだ測定されておらず、理論の綻びが見つかる可能性がある。それでも現在のデータセットは、今後10年間の研究で2倍以上になると予想されており、ヒッグス粒子の物理をさらに解明するうえで役立つことだろう。
過去10年間の研究の進展、今後に託される研究課題と将来の探索的研究の可能性について論じたGiulia ZanderighiたちのPerspective論文も同時掲載される。
doi:10.1038/s41586-022-04893-w
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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